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三章十六話 サッカー部
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「学校はどうだった?」
家に帰ると、優しく微笑む母親が様子を聞いてきた。小学生の頃は、一日に一緒に入れる時間は朝しかなく、特に学校での事を聞かれなかった。
今は帰れば必ずいて、会話も多い。春哉はそれだけで幸せだと感じられた。
「集団生活って難しいね。僕の近くにいる人って、今まで影井さんと詩鶴先生が殆どでさ、僕が何言っても怒らないんだ。
子供の言う事だからスルーしたのかもしれないけど、大人だから我慢したのかもしれない」
「何か言ったの?」
「悪い事言った記憶はないけど、今まで思った事そのまま言葉にしてたんだ。
でもそれをしたら人によっては傷付いたり、嫌な気持ちになる事もあるって学んだ」
「そうね。人によって言われて傷付く言葉も違うし、受け取り方によっても意味合いが変わってきてしまうね」
「自分に置き換えて考えてみるよ。僕が何とも思わない事で、他の人が嫌がる事だったらどうしようもないけど」
「思った通りにやってみなさい。失敗しても、それが成長になるのだから」
「うん!!」
春哉は母親に言われた通り、翌日からクラスメイトに声を掛けていった。特に仲良くするのは山下と柳瀬だが、男女問わず友達が増え、スマホのアドレスも友達の名前が増えていった。
「今日から部活開始だな!」
「いえー!」
張り切る柳瀬と春哉。二人は放課後になると、サッカーグラウンドに向かって行った。山下は部活に入らず帰り支度をしている。
「二人とも元気だね」
「うんっ! ようやくサッカー出来るし、この日を待ってたんだよ〜」
「俺も。高校ではレギュラーになりたい」
山下にまた明日と手を振って走った。
サッカー部に入部して、最初は走り込みから始まった。皆体操着を着ているが、靴下は膝までのサッカーソックスで、靴はサッカーシューズを履いている。
一年生は全部で六人入部しており、グラウンドの外周を二周走った。
一番体力のない春哉が最後尾を走り、皆より五分遅く到着した。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
肩で息をしている春哉は、到着した時には息も絶え絶えだ。すぐに先輩がやってきて喝を入れてきた。
「そんなんじゃやっていけないぞ!」
「す、すみませんっ」
「もう一周走ってこい!」
「ウスッ!」
春哉はどんなに他の人より遅れをとっていても、一度も弱音を吐かなかった。
授業はついていけていたので、夜は家周辺を走るようにして、持久力をつけていった。
二ヶ月も経つと身長が伸び始め、筋肉質な体型に変わっていた。友達付き合い、勉強、部活動……毎日が忙しく、影井の事を忘れる程だ。
「次の試合、一年から二名ベンチに入れる!」
と、サッカー部員全員を集めた顧問の先生が声を張り上げた。選ばれたのは柳瀬と他のクラスの者だ。走り込みもようやく皆に追い付けるようになった春哉が選ばれる筈もない。
だが、それでも春哉が部活を楽しいと思えるのはサッカーボールと触れ合えるからだ。サッカーをしている事がどれだけ幸せな事か、春哉を知らない者には分からない。
走り込みも満足に出来ない奴と見下す者もいるが、春哉はそういう目を全部無視する事にした。
部活動の時間も終わり、皆部室に戻ろうとしているが、まだ春哉は外周を走ろうとしていた。
「須賀〜まだやんの? いい加減帰ろうよ」
春哉を呼び止めたのは柳瀬だ。いつも一緒に帰っているので、春哉を放置して帰るのは気が引けたのだろう。一緒にグラウンドの外についてきた。
「柳瀬! 僕まだやりたいよ、少しずつ皆についていけるようになったんだ! 頑張って追い抜かすんだから!」
「すげーポジティブ。じゃあ俺も追い抜かされないように一緒に走るかな」
「ほんと!? 一人寂しいから嬉しい!」
「いいの? 追い抜かせなくなるぞ?」
「あははっ、いいんだよ。僕、こうやって学校通って、サッカーも出来て、君みたいな友達までいて、すっごく幸せなんだ」
「そっか、皆追い抜かして俺と試合出よう。これで満足されちゃ俺が困る」
「じゃあ競走! 先に一周した方が勝ちだよ!」
「ハンデ付けようか?」
「要らないよ〜。全力出そっ!!」
テンションが最高潮となった春哉と柳瀬は、よーいドンで走り出そうとした。その時、背後から春哉を呼ぶ声がした。
「……春哉」
春哉は足を止め、柳瀬も一緒に立ち止まった。
「あーーーー!! 影井さんっ! 影井さんだーー!!」
今までもずっと笑顔の春哉だったが、影井の姿を見た途端、更に笑顔を深めた。
その顔を柳瀬はずっと見つめていた。
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