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四章三話 詩鶴の小細工
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「ちょっと待って!」
春哉が詩鶴を制しても、詩鶴は止まらない。ズボンのボタンを外し、ファスナーを下げていく。
春哉の目線の先には豊満な胸の谷間。それが嫌いではないのでジッと見そうになるが、すぐに視線を逸らした。
「どうして? 峰岸にはやらせたでしょ?」
「なんでそれ……」
「私って影井さんより峰岸との方が仲良しなのよ」
「お、お母さん呼ぶよ?」
「どうぞ。さっき出掛けたけど、呼んでみる?」
「クッ……」
春哉は目を閉じて力を抜いた。
(どうせ何度も性処理として使われている身体だ、相手が女性になったってだけ。詩鶴先生は僕の所有者じゃないし、何かの代償に支払う訳じゃないけど……我慢しろ、僕!)
心の中でそう叫んだ。
だが、一向に次の手が来ないので、ゆっくりと目を開いた。
先程と同じ体勢なのに、何もせずに寂しそうな顔をした詩鶴がいた。
「詩鶴先生?」
「だめじゃない。嫌なら拒まなきゃ。影井さんと付き合う前にあなたに分かって欲しい事があるの」
「な、何?」
「自分を大事にする事。あなたの身体はあなただけのものじゃない。あなた、今自分がどんな顔してるか分かってる?」
「え……?」
春哉は無意識に力を抜いていた。松山に監禁されていた頃や、峰岸から暴力を受けた時と同じように。
その頃と同じ様な生気のない人形のような顔だ。詩鶴はその顔を見てゾッとしていた。
「自分の身体をそんな投げやりな扱いしたら、ご両親や影井さん、私とか、あなたの事を大事に思う人が悲しくなるんだよ。
知らないでしょ?」
「知ってるよ」
「知らないよ、だから耐える選択をしたんでしょ?」
「我慢すればいつか終わると思った。ずっと昔から、嫌な事があったら僕の心を遠くに飛ばしてたんだよ」
春哉は虚空を見た。まるで天井も透けて空の彼方が見えているようだ。
「遠くに?」
「そう。僕の心はここにないから、傷付いているのは身体だけ。そうすれば何も感じない」
「そうする事で自分を守ってきたんだね。それは春君にとって大事な事だったんだと思う。
それは正しい事だったよ。だから春君の心は壊れずに済んだのかも」
「壊れちゃえば楽だったんだけどね。手放す事は出来なかったよ。いつか家に帰れたら笑いたいって思ってたから」
にこっと笑顔を作ると、つられてか詩鶴も笑顔になる。
影井との出会いがなければ心はどこかへ行ったままだったのだ。そう考えただけで春哉は影井への愛をより強く感じる。
「これからは、嫌な事があったら心をどこかに飛ばさないで。嫌だと拒んで。
どうして峰岸に身体を許してしまったの?」
詩鶴が悲しそうな顔をしていた。春哉の胸はバクバクと大きく揺れる。それは罪悪感だとすぐ分かった。
自分が詩鶴を悲しませたのだと知った為だ。
「だって、僕の目的を果たすのに必要な事だったんだよ。それに、もう身体を売るような交渉はするなって峰岸さんに言われてる」
「でも、あなたは今抵抗を諦めたよね?」
「それは詩鶴先生だから。詩鶴先生なら僕を縛ったり、傷付けたりしないでしょ?」
「もう! 春君は好きな人いるでしょ。自分が認めた人以外に身体を許してはいけないの。先生との約束、守れる?」
詩鶴は右手の小指を差し出した。春哉もおずおずとだが右手の小指を近付けて、交差させた。
「先生との約束、守るよ。僕は今後影井さんとしかエッチしない!」
「そ、それは極端じゃないかな。影井さんに振られたらどうするの?」
「それでも。僕は今影井さん以外の人としたくないから。もし事情とか状況が変わったら、分からないけど」
「うん、それでいいよ。先生からの授業はこれで終わりでーす」
詩鶴はベッドから降りて、元の椅子に座った。春哉も慌てて服を整えて机に戻った。
「もービックリしたなぁ。先生の小細工ってコレ?」
「そう。春君の貞操観念を正常に戻しただけだけどね」
「その調子で峰岸さんの変な趣味も直す?」
「それは無理」
詩鶴はキッパリとそう言うと、家庭教師としての授業を再開したのであった。
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