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四章六話 友達の価値
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「……先生呼んだんだろ? 観念するよ」
静寂の中、最初に声を発したのは山下だった。
春哉は立ち上がると、にこーっとした笑顔で山下に近寄る。
「誰にも電話してないよ? 僕、事情があってあんまり大事には出来ないからさ。山下もあの子達もバカだねぇ」
「クソ、ふざけんなよ。お前らが悪いんだろ。十万は慰謝料だっつの。不快な思いさせられた俺の方が被害者だ!」
「はぁ? 俺らは何もしてないだろ」
柳瀬も反論する。実際、山下に何かをした訳ではないので不満しかない。
「柳瀬。山下の話も聞いてやろう? ねぇ、山下。なんでこんな事したの? 怒らないから言ってみて」
春哉が優しい口調でそう言うと、山下はようやく理由を説明した。
「お前ら、いつも俺に隠れてコソコソ。これっていじめじゃないのか? 俺仲間外れにしてさ、近寄ると俺は部外者みたいな感じで話題変えたりさ」
「山下は僕達がそうする理由考えた事ある? そう思ったなら聞いてくれれば説明したよ?」
「ど、どうせ俺が陰気だからだろ!? 昔からそうだ、影が薄いからって俺の事忘れやがって!」
「忘れてないよ。それは山下の思い込みだよ。ね、柳瀬」
「そうそう。影薄いとも思ってねぇし。本当に聞かれたくない話だったんだよ。
俺が須賀に告白して振られた話まで伝わりそうで嫌だったし」
柳瀬がそこまで言って、山下はポカンとした顔をした。聞き間違えたと思ったのだろうか、聞き返していた。
「え? 須賀に? 告白? 柳瀬が?
柳瀬ってゲイなのかよ?」
「だから言いたくなかったんだよ! 俺はノーマル! 気付いたら須賀の事好きになってたの。振られたんだけどさ。
今日は須賀が、好きな人に告る日なんだと」
「マジ?」
微妙に固まっている山下が春哉に視線を向ける。
「そうだよ。その十万円は借金でね、バイトして貯めたお金なんだ」
「はは……マジかよ。分かった、返すよ。警察でもどこでも突き出してくれ」
「うん。じゃあこれからの僕達の友情と交換ね!」
山下が十万円が入った封筒を春哉に差し出したが、春哉はそれを受け取らずに山下に笑顔を向けた。
「何……? どういう意味?」
もちろん山下は困惑している。柳瀬はまだ春哉の言いたい事が分かったのが、感心して鼻息を漏らした。
「警察沙汰にする程でもないよ。
僕は今後、山下にその十万円以上の価値がある友情を約束するよ。絶対山下を楽しませる。だからその十万と交換だよ」
「十万で友情って……」
「もちろん十万は最低額だよ。僕と山下と、柳瀬も。俺らの友情の価値は百万でも一億でも足りないって思わせるものにしようよ!」
「はは。意味分かんね」
山下はそう言いながらも涙を浮かべて何度も「ごめんなさい」と謝罪をしていた。春哉は快くお金を受け取ったのだった。
学校の門まで三人で並んで歩いた。
山下はサッカー部ではないので、サッカー部が休みでない時はいつも一人で帰っていた。
「ねぇ山下もサッカー部入る?」
春哉は、そうすれば一人で帰らずに済むよね? と言った。
「いやいやいや。俺体育会系無理。帰りは一人で大丈夫だし」
「そう言ってないで入れよ〜。あ、マネージャーとかやる?」
「マネージャーは女の子二人いるからそこに混ざるのキツくない?」
「確かに」
春哉と柳瀬は真剣に山下をサッカー部に入れる算段を話したが、山下がすぐに話題を変えた。
「そ、それより! 須賀は誰に告白するんだよ?」
「三十越えたオッサン」
「マジ!? 須賀もゲイ?」
「僕はゲイかもねぇ」
女性を好きになった事がないから分からないだけだが、好きになったのは影井だからゲイかと問われればゲイだと言うしかない。
「それがさぁ、須賀の彼氏候補すげーイケメンなんだよ。中身母ちゃんっぽいけど」
柳瀬が説明すると山下は驚いた顔をした。
「マジかよ」
「そうそう。中身は凄く口煩いお母さんみたいな人だよ」
口煩いところを想像すると、春哉は渋い顔になる。これでも好きな人である事には変わりないが。
「とか言って好きだから告るんだろ〜」
校門を出るまで柳瀬と山下にからかわれて春哉は頬を膨らませていたが、校門で二人と分かれた時は楽しそうに笑っていた。
それは柳瀬も山下も笑っていたからだ。
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