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最終話
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それから三年後……。
大学生になった春哉は、公の場で本来の年齢に戻る事が出来た。
高校一年生の時二十歳だったが、今は二十三歳だ。年齢を偽らなくて良いというだけの事だが、それだけで肩の荷が降りたようだ。
今は実家を出て影井と暮らしている。お互いがお互いを助け合うような関係だ。春哉は同棲生活に満足している。
ただ、彼が目指すのは一人の男として影井を守る事だ。愛する人の為の努力は惜しまない。
春哉は大学が終わると峰岸の事務所へ向かった。
「おはようございます」
「おーす」
仕事用の挨拶をすると、峰岸は適当な返事をした。いつもの事なので特に気にせず自分のデスクに座る。
やっている事はほぼ事務処理だ。ここで学べる事は多い。基本的に峰岸のサポートをしている。
「そういや春、影井が明日の準備出来たのか心配してたぞ? どうなんだ?」
唐突に話し掛けられて、春哉は眉間にしわを寄せた。
「準備は帰ってからです。心の準備は多分明日になっても難しいかもですが」
「ふぅん。よく分からんな。そういう面倒そうなのした事ねぇし」
「あーだから恋人の一人も出来ないわけですね」
「なんだとテメェ、犯すぞ」
「わーこわーい。僕影井さんに泣きついちゃおうかなぁ」
ニコニコとした笑顔で春哉が言うと、峰岸はチッと舌打ちをした。毎度のやりとりだ。
春哉は高校生の頃から峰岸の元で働いているが、それを知った影井が「春哉に何かしたら……」と軽く脅した為、峰岸が困らせてくるような事はない。
二十時頃に仕事を終えた春哉は、事務所を出て電車に乗った。着くまでの時間はスマホでチャットをしている事が多い。
画面を開くと、アプリの通知があった。山下と柳瀬からメールだ。連絡が来た順に対応をする。
まずは山下からだ。
『明日、楽しみだな』
簡素な文だが、この一文にどれだけの気持ちが入っているか分かっているので、春哉は嬉しく思った。
『楽しみだけど、緊張もするかな。ありがとう』
それだけ送って次に柳瀬からのメールを見る。
『よー須賀! 独身最後の夜を楽しんでるか? どうせ彼氏と一緒なんだろうけどな。皆で祝うからさぁ、近々会おうぜ』
電話をしたら同じ事を言うだろうと、柳瀬の反応を想像してクスリと笑いながら返事をする。
『結婚とはちょっと違うけどね。ありがとう』
高校を卒業した後、春哉は他大学に入学した為、そのまま内部の大学に進んだ二人とは距離が遠のいてしまった。
だが頻繁に連絡を取っており、たまに三人で会っている。関係は良好だ。
電車が目的地に着くと、彼らとのやりとりを中断した。改札口には既に待ち合わせの相手が待っていた。
「利典さんっ遅れてごめんなさい」
「大丈夫、そんなに待ってない。まだ待ち合わせ時間になってないしな」
春哉が苦笑すると、待ち合わせの相手──影井が微笑んだ。時計を見ると待ち合わせの五分前である。
「あー明日緊張する」
「書類を役所に出すだけだが」
「それでも! ねぇ今更だけど、影井さんは本当に大丈夫なの?」
「何度も言ったろう? 春哉の気持ちが嬉しかったんだ。 異論はない」
「嫌だったら明日までだからね」
二人は予約していたレストランへ行った。カップルや夫婦が多いお洒落なイタリアンレストランだ。
そこで食事をしてから、いつものバーへ向かった。
ワインやカクテル等を飲んだ春哉の顔は赤くなっている。影井も飲んでいるが、あまり顔に出ないタイプだ。
「今日は気分がいいなぁ」
「あんまり飲みすぎるなよ。明日が辛いぞ」
「分かってる。だって嬉しいんだもん。明日から利典さんは僕のお嫁さんだねぇ。ふふふふ」
「はぁ、酔うまで飲むなと言っているのに」
影井が溜息をつくと、
「春君酔っちゃったの?」
と、唐突に影井の隣に詩鶴が現れた。
「詩鶴か。君が春哉に変な飲み方を教えるから、毎度バーに来るとこれだ」
「私のせい? 酒は酔ってなんぼでしょ」
「その考えだからいけない。酒は飲んでも呑まれるなと……」
「利典さん頭かたーい」
気分良くニコニコしている春哉。その顔を見ると、影井も強くは言えなくなるのが悩みの種だ。
「それで? 明日なんで影井さんがお嫁さんになるの?」
「明日、養子縁組の書類を出しに行くんだ。俺が春哉の家に養子に入るから春哉が俺を嫁だって言い出してな」
「養子縁組する事になったんだ?」
「そう。春哉が是非にって。あんなプロポーズされたら断れなくてな」
「絆されてんねぇ」
「まぁな。それよりお前は大丈夫なのか?」
影井が真面目な顔で問うと、詩鶴はきょとんとした顔になった。
「何が? あー、もしかして浩二さんが亡くなった事?」
「ああ。後継者もいなかったようで、あの不法売買組織は解体したんだってな。売られた子達はまた違う組織に売られたそうだが……」
話を聞いていたのだろう、顔を赤くしたままむくりと起き上がった春哉は、不満そうに呟いた。
「そんな組織、全部この世からなくなればいいのに」
まだ過去の恨みは払拭出来ない。そもそもあの組織さえなければ……そう考える事の方が多いのだ。
だが危険を冒してまで人身売買組織と戦う力はないので、不満を言うしか出来ない。
「俺らが出来る事と言えば、その違法組織と戦っている団体に情報を送る事だけだよ。
特に春哉は情報収集してるんだから、危険だと思ったらすぐに言いなさい」
「そうよ。私、また新しいパパと巡り会えたから、何かあれば私がなんとかしてあげるね」
そう言うと詩鶴はにこーっと笑った。どうやら浩二が亡くなった為、また新たに権力者の愛人の座を勝ち取ったらしい。
「利典さん、ありがとう。あと先生も。そう言ってくれると心強いよ」
話しているとあっという間に時間が過ぎた。少し酔いの覚めた春哉と影井は手を繋いで帰路に着いた。
影井は春哉の手を握るとぎゅっと力を込めた。
「……春哉」
「どうしたの?」
「なんだか嘘みたいだ。明日から同じ籍に入るなんて」
「ごめんね。今度は僕が利典さんを縛ってしまうようで……」
「何を言うんだ」
「だってそうでしょ。利典さんは僕の戸籍に入るんだもん。でも、自由は保証するよ。
縛りたいから縁組するわけじゃない。あなたに寂しい思いをさせない為だから」
数ヶ月前、影井の実家に二人で挨拶をしに行った。
もう十数年関わりのなかった家だ。家族の者達はあまり影井に興味を示さなかった。
グチグチと母親が嫌味を言い出したので、春哉は「利典さんは僕が貰います!」と啖呵を切って連れて帰ったのだ。
「もうあんな家族の一員でいる事はないんだよ。利典さんが嫌でなければ、僕の家族になりませんか?
これからは絶対に僕が守るから」
そう言って、春哉は影井を大事にしてきた。その後も春哉一人で影井の実家に再度養子縁組の話をしに行ったりもした。
影井が一番辛い思いをしないよう、ずっと近くで守ってきたのだ。
これからは今まで以上に影井を守れる。それが嬉しい事であり。春哉にとっての幸せでもあった。
春哉はエスコートをするように影井の手を引いて深い夜の道を歩く。月明かりが二人を祝福するかのように煌々と輝いていた。
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ここまで読んでくださってありがとうございました。
今、この作品のスピンオフを密かに書いておりまして、今年以内に投稿しようかと思ってます。
その時はまた読んでくださると嬉しいです。
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