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「ひどいな。三島さん。こいつの味方しちゃって。おれの味方してくださいよ」
「味方って……」
「ほらほら。いいから。片づけて。今晩は遅いし。なにか買って帰るからね」
「また~? ってかさ。春介(しゅんすけ)が夕飯当番なんだから。こんな遅くまで居残りしないで夕飯でも作ってなさいよ」
「おれだって忙しいの。議会の時期は、どこも一緒」
「また~。平なんだから、少しくらい融通効くくせに。夕飯作りたくない言い訳だ」
天沼さんが腰を上げて帰り支度をし始めたので、おれは、はったとして声をかけた。
「すみませんでした。お疲れ様でした」
退室しようと思ったのだ。
すると二人はおれを見て笑顔を見せた。
「これから朝まででしょう? 三島さん、お疲れ様です」
「お疲れ様でした」
二人が自分たちの会話に戻るのを聞きながら、おれは副市長室を出る。
廊下は非常灯の光だけで、しんと静まり返っていた。
ーー見てはいけないものだったのだろうか? 夕飯当番だって? それって……一緒に住んでいるってこと?
覚束ない足取りで暗い廊下を進む。
「『ひな』って……名前? 『春介』って名前……」
二人は確実に親しいのだ。
そして一緒に住んでいるのだ。
途中で感じた『やましさ』とはなんだ?
自分は天沼さんに対して、『どうしたい』ーー?
脳裏には彼の笑顔が浮かぶ。
『あいつ』
『こいつ』
親しい間柄。
ーーこれから二人はどうするの? 一緒に帰るのだ。
『今日なに食べる?』
『この時間だと、コンビニしかないな』
『じゃあ、コンビニにしようか。でも、食事どころじゃないな。今晩は……』
『あ、ひなは本当にいやらしいんだから。おれのこと食べたい?』
『ち、違うし。別に』
『いいよ。おれ。ひなだったらーー』
あの『春介』は、きっと二人きりになった瞬間、天沼さんを引き寄せて抱きしめるんだ。
そして唇を寄せる。
伏目がちだけど、嬉しそうに頬を赤くして、天沼さんはその口づけに応えるにきまっている。
ーー天沼さんの舌の感触ってどうなんだろう?
男だから固いのかな。
唾液を絡ませて、ねっとりとしたキスをするんだ。
天沼さんの唾液だったら飲んでしまいたい……。
そんな妄想会話が脳裏に流れて、顔が真っ赤になる。
「い、いかん。なんだ。おれは。どうした、おい! しっかりしろ」
頬を抑えて、熱くなりそうな下半身を抑え込む。
「うう……。一番、卑猥なのはおれだろ~……」
内心泣きそうになった。
だっていつもの天沼さんじゃなかったんだ。
あの『春介』って男といる彼は自然体。
笑みがこぼれて、本当に嬉しそうに瞳を細めていた。
艶っぽくて、あれは……エロいっ!
あの笑顔をおれにも向けてもらえないものなのだろうか。
ムリだ。
だっておれは他人だ。
他人同士。
そして他人ではないあの二人の間に、おれが入る余地はないーー。
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