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昼間の電柱の影
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昔から憲次は、憲一と違って大人しく真面目なイメージがあった。
憲一が寺の屏風に穴を開けたり、市から景観認定されている庭の黒松を折ったり、後輩から金を巻きあげていた先輩方に鉄槌を喰らわせ大人にやりすぎだと叱られたりのエピソード製造機だったのとは真逆。
何かあれば真っ先に疑われその殆どが濡れ衣にならない兄の背を、憲次は譲より近くで見てきたのだからそうなって然りなんだろう。
翌朝目覚めた譲は、そんな憲次が今更憲一に頼まれたからといって自分に告白するだろうかと腑に落ち無い気もしたのだが、他に思い当たることが無くそれ以上深く考えなかった。
兄弟で断れないことだってありそうだ。
「良いからどけっ
本当にお前は何がしたくて化けて出てるんだ?」
『化けてなんてねぇんだけどなぁ』
ジタバタ足を動かしても手応えがまるでない。
それなのに、譲の頬を撫でる掌は暖かく、見た目は半透明なのに感触は人肌と相違がない。
本当に、コレは何なのだろうと譲は謎の物体を改めて見上げた。
四日前、ふとアパートの外が気になり窓を開けると、すぐ前の電柱の影にコレは立っていた。
そう、そのときは地面に足をつけていたし、何も話さず無言でこちらを見上げていたから譲は憲次が会いに来たのだろうかと錯覚したくらいだ。
憲一と憲次に距離があったのと比例して、個人的に譲が憲次と何かした記憶は無かった。
若干癖の強い憲一ではあったが、友達としては最高に面白かったので譲は自らつるんでいたのだ。
けれど、そこは田舎町。
何か向こうであって相談に来たのか、夏休みに遊びに来たのか、あぁそう言えば告白ドッキリぶりだからそのことかもしれないと譲はあれこれ考えつつ、「憲次だよな?取り敢えず入って来い」と手招きして窓から誘った。
夏の陽射しの下で帽子も被らず、作務衣姿で突っ立っているのを見兼ねたのだ。
譲は窓を閉め、直ぐに飲めるよう冷蔵庫から麦茶を出してコップに用意した。
けれど、いくら待っても憲次は部屋に入って来ず、近所を探してみたが見当たらない。
心配になって憲一に連絡をしたら、憲次は修行で山奥に行っていると言われ、盆で忙しいんだと珍しく即切りされた。
何だったのだろうかとモヤモヤしたが、見間違いだったのかもしれないなと譲は考えそのまま忘れた。
ハッキリした異変は、翌朝。
譲は、悲鳴を上げて飛び起きることになった。
初めて宙に浮かびニヤニヤ嗤う姿を見たのだから声も出る。
しかも、至近距離で見下されていたから、透けて見える天井とソレの輪郭が混じって空間が歪み気持ち悪くなった。
譲の悲鳴は、時間帯も声の大きさも非常識レベル。
隣から薄い壁をドンッと強く叩かれてしまった。
トイレに逃げても壁をすり抜け追い掛けてくる。
交番に裸足で駆け込んでも、背中に張り付かれているのに気付いてもらえない。
耳元で『ユズちゃん、早く帰ろぅぜぇ』『ユズちゃん、諦めなよ』としつこく繰り返され、譲の相手をしていた警官の身体に絶妙な角度で潜って『阿修羅っ、あ、ヤベぇな、もう一人探してこねぇと』と笑わされた。
早朝起き抜けの格好で裸足で駆け込んできた青年が、調書の途中で突然吹き出したのだ。
あとの警官の対応は冷たいものだった。
譲は愉快犯と思われたらしく、厳重に注意されてすごすご帰宅する羽目になった。
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