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その町は都市の一角でありながら、住宅よりも田畑の面積が多かった。竜が住むと囁かれる森を背に農業で栄える田舎町。都市部に走るような機械の車は少なく、馬車や小さなバイクの方が主流とされている程だ。
数年ぶりにその地を訪れたトクトは懐かしい土の匂いの混じる風を体に染み込ませた。辺りを見回し、変わってしまった町並みと変わらない田畑を眺める。
掠れる記憶をたよりに思い出の道をたどる。店主が泥棒を怒鳴り付けていたあのくたびれた青果店には、しわの多い背の丸まった老人が大人しく座っている。
よく靴磨きの少年が集まっていた噴水の広場まで出ると、見たことの無い暗い色のローブを纏った十人程の集団がなにやら道行く人に呼び掛けている。
ふと、その中に見覚えのある人物を見かけた。
淡い色の髪、透き通った青い瞳。遠目で見れば女性と見間違うような繊細な肌と、細い首。
トクトは思わず駆け寄ってその手を取った。
━━━彼と会ったのはもう数年前のこと。
幼い頃、喧嘩の多い両親が嫌で家を飛び出したある日、細い畑道を歩いていくと背中を丸めて大粒の涙を流して座り込んでいた同い年くらいの子供を見つけた。
声をかけると大きな青い瞳がまっすぐこちらを見た。揃わない髪が肩まで無造作に伸び涙で顔にまとわりつく、はじめは女の子かと思ったがしばらく話をしてそうじゃないと知った。
シガーと名乗った少年は涙を拭うと隣に座ったトクトをじっと見つめた。
「なんで泣いてたの?」
「市場に行くと石を投げられるんだ。魔女の子だって。」
「お前の母ちゃん魔女なの?」
「薬を作っているだけ、葉っぱをくだいてる。」
喧嘩ばかりしてるうちの親よりましといったらシガーは笑った。
それからシガーとはよく遊ぶようになった。毎日のように日が暮れるまで遊んだ。シガーといると楽しくて家での嫌の事なんか忘れられた。なによりその青い瞳が綺麗でずっと見ていたくなるようだった。
きっとこの感情が友情ではないことに気がついたのは、十五の歳になって親の都合で町を離れる事になる少し前だった。
噴水広場の前で他のローブの者達と紛れる彼を抜くようにその手を引いた。
「シガー! 俺の事覚えてる?」
「トクト…!」
自分を覚えていたようで彼は驚いてから柔らかい表情で笑った。
昔よりもすらりと伸びた背、伸ばした髪は首もとで結い、薄い眼鏡をしていたが空より澄み海より深い瞳の色は変わらず綺麗だった。
「お前、ずっとこの町にいたのか? 俺は仕事の関係でまたこの町で暮らすことになったんだ。」
そう伝えるとシガーはあの時のように瞳を潤ませて今にも泣き出しそうな顔をした。
「…そうなんだ。僕はずっとこの町いたよ。そっか、トクト、君は本当に…」
「シガー、誰だいその青年は?」
話を切るように近寄ってきたのは黒いローブを纏った集団の一人で、他の者よりひときわ豪華な装飾をつけた背の高い中年の男だった。
「えと、僕の古い友人です。久しぶりに町に来たそうで少し話をしていただけです、教主様。」
シガーは少し焦った様子で言い、その男を教主と呼んだ。
「ああ、なるほど。しかし今は仕事中だ私用はまた後にしてくれたまえ。」
教主と呼ばれた男はふむふむと頷きながらトクトをまじまじと見つめた。そして、シガーの肩を抱くように寄せるとその白い首筋を指でなぞった。
「…ああ、それとも、よかったら我らの家に遊びに来るかい。」
ローブを纏った集団はいつのまにか教主の横に集まり、囲むようにトクトを見ていた。
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