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④
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トクトは眠れない夜を過ごしていた。
地下室での光景が何度も脳裏を駆け巡る。
シガーは教主と愛し合っていた。脅されているか弱みを握られている、だなんて都合の良い解釈を並べてみたがあの時のようすを思い出すと無理やりだとか嫌々されている感じはしなかった。
人は変わってしまう。シガーだって会わなかった数年に、あの教主との間で語り尽くせないドラマが生まれていたのかも知れない。胸は痛むが今はそう解釈するしかなかった。
コンコンと、玄関のドアが鳴る。
真夜中だと言うのに客なんて、最近越してきたばかりの自分に対する嫌がらせだろうかなどと思いながらも玄関へと向かった。
「夜分遅くにご免なさい。トクトの家はここですか。」
闇に溶けそうな柔らかな声が扉越しに聞こえた。
トクトは驚いて咄嗟に扉を開ける。
そこにはシガーが立っていた。昼間のローブ姿ではなく、白いシャツの私服のようだった。
「シガー…」
「ごめんね、こんな夜にそれに急に。昼間に話ができなかったから…その…」
シガーは寂しげな顔をしてうつむいた。
「まあ入れよ。」
諦めようと思った最中にこれだ。シガーの寂しそうな顔に、幼いときの泣き出す顔を思い出した。
シガーは肩を小さくして椅子に座った。
トクトも向かい合うように座った。
「どう思った、その…僕が教団にいるの。」
ぽつりとシガーはそう話し出した。
「どうって…意外つーか。少し怖くなった。」
「そう、だよね。知らない人からみると変だったり怖く感じるよね。」
「好きでやってるのか。」
「…うん。でも、誤解しないで欲しいんだ、いい人も沢山いるんだよ。皆支え合って活動してて、貧しい人を裕福な人が支援したりしてさ。」
「教主と付き合ってるのも? 」
シガーは目を大きくしてこちらを見つめた。
そして唇を少し噛むようにしてまたうつむいた。
「地下室の、もしかして見て、た? 」
「ああ。」
シガーの手のは震えだし、押さえようと指を組んだ。
「付き合ってるなら、やましいことじゃない。場所は選んだ方が良いとは思うけども。別にお前が弱みを握られて無理矢理付き合わされてるんじゃなければ…」
シガーは何故か目に涙を溜めていた。
「シガー? 」
覗き込むようにトクトが顔を近づけると、シガーは勢いよく顔を上げた。
「うん、そうだよね。…実は、トクトが居なくなってからすぐ母さんが事故で亡くなって、生活とか色々大変になったんだ。だけど教主様が助けてくれて…だからあの人には色々恩もあって優しくしてもらってるから、その、そういう関係になって…」
「そうか、おふくろさん…。たいへんだったんだな。…でも、嫌々付き合ってるんじゃないんだろ? 」
「…ご、ごめん、これ以上君を困らせる訳には行かないから、そろそろ帰るよ。」
「シガー! 」
立ち上がって去ろうとするシガーの腕を掴む。
「はっきり言ってくれ、そうじゃなきゃ俺だってお前の事好きな気持ちを諦めきれないだろ! あの日からずっと、会えなかったこの数年ずっとお前を想い続けてきた俺がバカみたいだろ。頼むから、はっきり振ってくれ。」
シガーは綺麗な青い瞳を輝かせてこちらを見ていた。口をぽかんと開けて、頬を赤くしている。
「トクト、僕の事そんなに想っていてくれたんだ。…なのに僕は」シガーはうつむいた。
そして、少し悲しそうに笑ってトクトをじっと見詰めた。
「トクトが約束を守ってくれた事、忘れないよ。本当に嬉しかったんだ。でも…でも、トクトはこれ以上関わる必要はないよ。」
シガーは服の上からでも伝わるほど熱い手を振りほどいた。
「じゃあ何のために来たんだよ! 辛いなら俺が助けるから。なあ、本当の事を教えてくれ…」
シガーは大粒の涙を流しながらただじっとトクトを見つめた。
「僕も好きだったよ。」
シガーはそう言い残し夜の闇へと走り去っていった。
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