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月が見えない夜だった。
一通り悪事を働いた身には相応しい、ブルーベリーを塗りたくったような暗く濁った通学路。おかしいな、罪悪感など微塵もないのに。心のモヤは晴れたのに。こんなときはさっさと大通りに出てしまうに限る。
明日の歩の反応が気になって仕方がなかった。昇降口で靴を履き替えようとすると
【 ホ モ 】
教室では自分の机がむごいことになっており、極めつけはてるてる坊主の断首。歩は一生分からないだろう、俺がてるてる坊主をどうしてそこまで毛嫌いしているのか。
そんなことを考えていたからか、駅前で歩と鉢合わせてしまった。
「あったぬきちだ! 何してたの?」
「電車待ち」
「奇遇だねー。僕もだよ。一緒に帰ろっか。あーー! これ見て! ミスドの期間限定メニューだってさ。えー食べたくなっちゃった……ちょっと付き合ってもらうよ!」
何も言う間もなかった。友達ムーブかましてくるけど自分が嫌われている自覚ある?
「もーお腹空きすぎてやばいの。え、たぬきち一個だけでいいの? 足りる?」
これは彼なりの疲れたアピールなのか。「たぬきちはお腹空くほど動いてないんでしょう」そう言ってマウントとる姿がイメージできる。
早急に食べ終えて携帯を無心でいじる。話しかけてくんなよ、話しかけてくんなよ……Wi-Fiで念を送りながら。
無心なのは向こうも同じだった。旺盛な食欲だ。携帯越しに観察したが、俺より一回り小さい図体にどうやったらあの量のドーナツが入るのだろう。想像するだけで胸焼け。
「歩、ここ」
「え?」
「唇のここんとこ、チョコついてる」
「ここ?」
「反対」
ああもう。ベタなドジしやがって。
「あっ……ありがとう」
「礼は言わないで。はずい」
「だね。なんか恋人同士みたい!」
黙れ。
「恋人かぁ。たぬきちは好きな人とかいないの? 付き合ってる人とか」
「いないよ。そういうのあんまり興味ないし」
目を伏せて堂々と嘘をつく。
「えーもったいない。たぬきちモテそうだけどね」
せめて食うかお世辞言うかどっちかにしろ。
店外では早速雨が降り始めていた。
「あーー雨だぁ。てるてる坊主吊るしてるのに」
生憎すでに処刑済みだ。
「これじゃ明日の部活は屋内かな。悲しみー」
「別に廊下でも走ろうと思えば走れるじゃん」
「だめだよ。ウサミンが悲しむ」
うさ……。
「ウサミン、が?」
思わずあだ名で呼んでしまった。
「そ。ウサミンは晴れた日にお外走るのが好きなんだって」
「随分宇佐美に肩入れするんだね。陸上部選んだのも宇佐美が決め手だったし」
そこら中が地雷原のようだ。一歩でも踏み込めば爆死あるのみ。
「うん。だって僕、宇佐美のこと好きだから」
「好きって、そっちの意味で?」
「うん」
こともなげに言ってのけた歩は、強さを増す雨のほうが気がかりなようだ。空を仰いで「本降りだー」とそれはそれは呑気そうに。
歩。
奇遇だな。俺もだよ。
月も見えない夜のこと。
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