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今年は本当に雨が多いと思うのだが、それは俺の体感が狂っているからなのか。
校庭の真ん中あたりで急に呼び止められた。
「ねぇ、たぬきち」
歩だ。宇佐美もいる。二人で一本の傘に入って。
「たまには一緒に帰らない?」
「一緒って三人でってこと?」
「綿貫、鞄の中に折りたたみ持ってるだろ。それ使えばいいじゃん」
なんだか力が抜けていく。全てお見通しというわけだ。
それなら俺の気持ちも分かるはずだよな?
二人の口調に怒気はなく、ひたすら優しい。それが俺にとって身を切られるほど辛いということ、分かっているよな?
おもむろに鞄から折りたたみ傘を取り出し、伸ばして棒状にする。それを持って二人に近づき、突き出した。狙うは眼窩。なんつって。
「これ使って」
「え?」
歩は突然の申し出に困惑しているようだ。
「俺の折りたたみ使えば、二人とも一本ずつになるでしょ。無理して相合傘しなくていいんだよ」
「いや、普通に綿貫が使えばいいだろ。そしたら誰も濡れないし」
馬鹿だなぁ宇佐美は。二人が相合してる中、俺一人で傘を差せと?
それは残酷だよ。ほんとに刺しちゃうぞ。
「じゃあね」
俺は傘を押しつけ、さっさとその場を後にする。
二人とも分かってないな。濡れるのはそこまで悪いことではない。
なぜならーー通常なら目立ってしまう涙でさえ、この豪雨なら忍ばせることができるから。完全防水になりきれていない俺にはうってつけなのだ。
もうじき梅雨は明ける。人知れず海底に錆びついた心を置き去りにして。
鏡に映る男は一際濡れていた。黒い髪も、頬も、制服も、なんなら纏う雰囲気すら水気を帯びており、無事な箇所を探すほうが難しい。俺は人差し指で鏡の姿をなぞる。指先から垂れた水が鏡像を縦断した。
髪を乾かしてパーカーに着替える。あとで脱衣場の床も拭かなければ。再び一階へ降りようと階段に差し掛かると、窓の外に虹が見えた。
気づけば傘を差して外に出ていた。
窓の方角を頭で計算しながら近所を闇雲に歩くが、どうしてか虹は見つけられない。方向音痴なんだよな俺。
雨の影響で人気のない公園に立ち寄った。雨続きのため、ここで遊ぶ子どももめっきり減ったように思う。俺も昔はここでよく遊んだものだ。雨の日はさすがに来ることはなかったが、晴れた日にはあの砂場でお城を作っていた。
まず、三角形を描く。次にいずれかの辺の中心から外側に向けて線を引く。それが傘の中棒となる。てっぺんにはハートマークを描こう。
仕上げに人名を書く。好きな人の名前だ。書くのはやっぱりーー。
♡
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ー ー ー
う |
さ |
み |
了
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