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5.どっちにする?
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(キス…?えっ…なん…で…)
春の思考は一瞬停止してしまい、目の前にある玲の長いまつげを、瞬きするのも忘れ、ただ見つめてしまう。
すると、机についていた手を痛いほど強く後ろに引っ張られ、春の身体は元居たソファーに、乱暴に戻された。
「あや…と…」
春の腕を引っ張ったのはもちろん綾人だったが、いつのまにかソファーから立ち上がっていた綾人を春はそっと見上げると、綾人の眉間に微かに皺が寄っているように見えた。
(綾人が…怒ってる…?)
いつも冷静な綾人が、自分のために怒ってくれているのでは思った春は、思わず心臓が高鳴る。
だが、その音は、まるで警報のように体中に鳴り響いているように春に感じさせた。
(やめろ…。治まれ…。こんな気持ち、オレには許されないんだ…)
胸を押さえながら俯くようにして、春は自分に言い聞かせていると、急に音楽が流れ出した。
「これっ…て…」
それは、先ほどまで玲が弄っていたパソコンから流れているものだった。
「今、この曲を仕上げているんだー。二人をイメージしてね」
「オレ達…?これが…?」
アイドルソングとは思えない重たい曲調で、何か叫び声のようなものを感じさせ、一度耳にすれば二度と離れることのない、人を惹きつける、まさに玲の曲だった。
(な、なんだよ…この曲…)
曲が進むにつれて春の鼓動は速くなり、息が詰まるような感覚を春は覚えた。
それは、ずっと隠していたものを掘り起こされ、晒されるような気分にさせたからだった。
「どう?二人が歌ったデビュー曲は、誰が歌っても一緒。なーんも響いてこない。でも僕なら、ちゃんとこうやって、二人の曲を作れる。でも…これじゃだめなんだよねー…。まだ足りない」
玲は深い溜め息をついて曲を止めると、ノートパソコンをソファーの上に投げ捨てるように放り投げると、膝の上に肘をつき、頬杖をついて春と綾人を交互に見つめた。
「もっと二人の本質が見たいんだー。もっと…ね」
先ほど流れた曲のように、玲の目はすべてを見透かしているように感じた春は、思わず玲から目を逸らしてしまう。
「本質って…。オレ達は別に…」
(やめろ…。そんな目で見るな…)
「ねえ、ハルちゃんは、僕に抱かれているところを綾人君に見てもらうのと、綾人君に抱かれているところを僕に見せるの…。どっちがいい?」
楽しそうに笑顔を浮かべ言う玲の質問に、春は凍りついたように動けなくなってしまった。
(今…なんて…?オレが綾人に…?いや、綾人に見せる…?)
「な、何言って…。だいたい、男同士でそんな…。なあ、綾人?」
動揺を隠すように、春は笑いながら足と腕を組み、立ったままの綾人を見上げた。
だが、春が見上げた綾人の表情は、真剣なままだった。
「綾人…?」
その表情の意味が分からず、春は思わず息を飲む。
「どうして僕がこんなことを言うのか、綾人君が一番、理解しているはずなんだけどねー?」
「えっ?一体、どういうことだよ…」
春は玲と綾人を交互に見つめるが、綾人は先ほどのように何も言わなかった。
すると、玲はソファーの上に雑多に置かれていた雑誌の間から、一冊の冊子のようなものを取り出し手にすると、春が座っているソファーの後ろまでゆっくり歩いていった。
「その様子だと、ハルちゃんは知らないみたいだねー。綾人君がドラマの主演に抜擢されていること。ちなみに、次の僕のお仕事はその主題歌だよ。その意味、分かるよね?」
「え?」
春の後ろに回り、ソファーの背凭れに肘をついた玲は、手にしていた冊子を後ろから春に差し出した。
春は玲から差し出された冊子を受け取り表紙を見ると、それは準備稿と書かれた、まだ決定稿に至る前の台本だった。
(なんだよ、これ…。オレは、そんな話、一言も…)
受け取った台本を片手で握りしめた春は、スッと立ち上がると、綾人に一歩近づき、綾人の腕を掴んた。
「どういうことだよ…。綾人…」
腕を掴む指先に力が入ってしまう春に対して、綾人は首を横に振るだけだった。
「…。俺はそんな仕事、受けた覚えもないし、受けるつもりもない」
「えー、まさか蹴っちゃうの?主演だよ?」
玲は信じられないといった様子で、肩を竦めた。
「俺には…。役者の仕事は、必要のないことだから」
綾人の言い捨てるような言葉に、春は頭が真っ白になった。
(また、オレのせいで…。綾人の選びたい道をオレが…。綾人は、こんなとこで躓いていい存在じゃないのに…)
春は、掴んでいた綾人の腕を、何かを諦めるように静かに離した。
「玲…。さっきの話、乗ってやれば、曲、作ってくれるんだよな…?」
「…!春、何言って…」
綾人は思わず目を見開き、春を見つめた。
だが、春は綾人を見ようともせず、振り返り、ソファーの背凭れに肘をついて笑みを浮かべる玲を真っ直ぐ見つめた。
「もちろん。わーい。それじゃあ…」
嬉しそうに飛び跳ねる玲に、春は下唇を一度噛むと、ゆっくり答えた。
「ただし、オレを抱くのは…綾人だ」
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