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気持ちを伝えたらお終い
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「あらら、ハルちゃんってば気を失っちゃった。でも、やっと素直になったね」
玲は満足気に笑みを浮かべながら、横たわる春の頬にそっと手のひらで触れた。
だが、その手はすぐに綾人によって払い除けられた。
「触らないって約束だったと思うんだけど」
玲に対して敬語を使うのをやめた綾人は、ベッドの端に追いやられていたバスローブを手に取ると、広げて、春の身体を隠すように覆った。
「綾人君のケチ。いいじゃん、少しくらい。本当だったら僕に感謝すべきなんじゃないの?こうやってハルちゃんの本当の気持ち、確かめてあげたんだから」
頬を軽く膨らませ不貞腐れた玲の態度を気にすることなく、綾人は気を失った春の鼻先に唇で触れ、愛おしそうに春の髪を掻き上げ、頬を撫でた。
「…。いつ、春のことを知ったんだ?」
春の頬を撫でる優しい手つきとは違い、綾人が玲を横目で見る目は敵視に溢れ、冷ややかだった。
だが、そんな綾人の目に動じることなく、玲は楽しそうに笑みを浮かべた。
「二人が事務所の廊下でキス…いや、綾人君が出来なかった日って言ったら思い出すかな?」
「それって…」
綾人は初めて春の泣き顔を見た、一年前の出来事を思い出す。
「よいしょっと」
玲はベッドから立ち上がり、窓際に置いてあったリクライニングソファーに腰掛けると、足元に落ちたままになっていた台本を手に取った。
「あの日、この台本のドラマの主題歌の話をもらって、僕は綾人君に直接会ってみたくなったんだ。それで、あの場所に偶然居合わせたんだ」
一年前、社長からグループでのデビューを断った綾人に、ビジュアルがイメージ通りだと、ドラマ主演の話が舞い込んできた。
綾人自身、元々演技の仕事に興味があったが、もしその道を選んでしまったら春と離れてしまうという不安から、返事を躊躇していた。
だがあの日、春の涙を見て一緒にいる決意をした綾人は、主演の話を断った。
「綾人君がオファー断ったせいで、プライド高い脚本家がお怒りでさー。題名も内容も書き換えられて僕も別の曲を作ったんだけど。でも、僕は諦められなかった。独占欲に溺れるあの役を演じる綾人君を…そして、あの曲を完成させたかった…」
玲は手に持っていた台本を傍らに置くと、いつのまにかバスローブを羽織ってベットに腰かけていた綾人をじっと見つめた。
「春に話していた、次のドラマの主題歌を作っているっていうのは…嘘なのか?」
「嘘じゃないよ。ドラマの話も本当だし、主演に綾人君が挙がっているのも、主題歌も僕だっていうのも本当。でも、さっき聴かせた曲は、去年の作りかけ。ずっと、終わらせることが出来なかったんだ」
玲の表情からは笑みが消え、高校生とは思えないほど真剣な目をしていた。
「…。玲は一体、何がしたかったんだ?春を手に入れたい…っていうわけじゃないのか?」
「僕も綾人君が分からない。綾人君に負い目を感じて、ハルちゃんが苦しんでいること分かってて、なんでハルちゃんの気持ち、気付かないフリしているの?どうせ、さっきの告白も聞かなかったフリ…するんでしょ?」
「俺は…。春を繋ぎとめておけるなら、気持ちが通じ合うなんて関係ない。春のそばにいられれば、それでいいって思っているだけだ」
「お互い好き合っているのに?そんなの不毛じゃない?」
「俺は、春の恋人になりたいわけじゃない。そばにいたい、ただそれだけだ。春が俺に気持ちを言わないで、俺を思ってくれるなら…それで充分だ」
「ふーん…。僕にはよく分からないや」
玲はリクライニングソファーから立ち上がると、窓に向かい、閉められていたカーテンを少しだけ開けて、日の落ちた外を覗いた。
「そろそろ俺の質問にも答えてくれ。玲は…春が好きなのか?」
玲の背を見つめながら質問をする綾人の姿は、少しだけ開けられた窓ガラスに反射して玲の目に映っていた。
「今思えば一目惚れだったのかも。でもね、好きな人が幸せになってくれるのが…僕は一番嬉しいって思うんだ」
カーテンを握る玲の手に力が込められたことに、綾人は静かに気づいた。
「…。春のこと、本気なんだな…」
玲はゆっくりと、ベッドに腰かける綾人に向かって振り向いた。
「奪おうとは思っていないから安心して。今は…二番でいいかな」
「今は…か」
「さっきも言ったでしょ。僕は好きな人が幸せそうな顔をしているのが一番嬉しいんだ。今は僕じゃない人が隣にいるのが一番幸せそうだから、何もしないよ。さて、そろそろ仕事しようかなー」
春に見せていたように、無邪気に玲はにっこりと笑うと、リビングルームに繋がる扉に向かって歩き出した。
「こんなことのために、俺たちのデビューをわざわざあんな形で潰したのか?」
綾人の質問に、ドアノブを回そうとした玲の手はそのまま止まった。
「…なんのことかな?」
玲は綾人に背を向けたまま顔を上げた。
「玲なんだろ?うちのライバル事務所のアイドルに曲提供したの…。わざわざリリース日ぶつけて…。なんで、そこまでしたんだ?春のこと好きなんじゃないのか?」
「さあ…。僕は知らないよ。でも、セカンドシングルは必ずいいものにするから…安心してね。ハルちゃんが目を覚ますまで、ゆっくり愛でてあげなよ」
玲はそのまま振り返ることなく部屋を出て行き、ゆっくりと扉が閉められた。
扉を閉めると、玲は首に引っかかていた制服のネクタイを抜き取り床に落とすと、扉に背中を預けた。
「本当は…綾人君が好きなんて、言えないよね…」
玲は天井を見上げながら、深い溜め息をついた。
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