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気が付けば
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まだ彼を妬んでいたあの頃…
初めて温もりに触れた。
初めて優しさに触れた。
どんなに足掻いても、どんなに必死になっても…
届かないと思っていた。
〔次期将軍は、クウガ…お主に任せよう。〕
全身が鉛になったかのように重くなって…
息がし辛い。
横目で父上を見れば、冷めた目をしていた…
余計に身体が重くなった気がした。
『え、いや…俺そんなつもり無ぇんだけど。』
〔な…!〕
『こんな面倒くせぇ所来たくねぇしー。』
鼻をほじりながらそうぼやく男は、俺と同い年で何よりも…誰よりも強い男。
嗚呼、憎い。
俺がこんなにも努力をして、必死になったというのに…この男は…っ!
「……っ…」
『じゃ、そーゆーことで。』
《馬鹿者!待て!!クウガ!!》
〔はぁ…全く、クウガの奴……如何致します?陛下。〕
[はっはっはっ!面白い!あの裏表の無い所がまた良いよねぇ。]
〔陛下…〕
あんな男にやるのなら俺にくれ。
俺なら陛下の為に何だってする…この身が朽ち果てようとも…
けれど…何も言わないという事はそうなのだろう。
服例をして、その場から立ち去る。
「……。」
【残念だったな…セン。】
「…っ!ち、父上…!」
【あぁ……本っ当に残念だぁ…】
「す、すみません父上!ですがっ」
【この私に口答えする気か?愚息よ。】
「……っ…」
ギロリと睨まれ、俺は口を噤んだ。
怖くて足が震える…
【愚息には仕置が必要だな。】
「す、みません…」
【私の部屋に来い、良いな。】
「……御意。」
立ち去る父上が見えなくなった瞬間、俺はその場に崩れる様にして座り込んだ。
嗚呼…父上に失望された。
どうして?
なんで?
俺はこんなに……こん、なに…
震える足に力を込め、立ち上がる。
少し距離を取りながらも、父上の後を付いていく…
部屋に入った瞬間、いつものと変わら無い罰を受けた。
身体は縛られ…鞭や木剣で身体を叩かれ切られる。
幼少期から続くこの躾方法…失敗があると必ず罰と言って行われる。
ただ、耐えるしかない。
すると父上が急に鞭を振り下ろさなくなった…
【口を開けろ。】
「…え…」
【この私に口答えした罰だ。】
「…う…ぁ…っ…」
無理やり口を開かされ、舌を掴まれる。
何をする気なのだ。
冷や汗が背中に伝う中、父上見上げると…
その手には焼印があった…
赤く…黄色く…白く……
「あ…っ…あぁ…!」
【まだやれるか?】
「っ!はひ!あえまう!あえまうのへ!!あかあ!!」
【だが、もう遅い…】
「っ!…〜〜〜〜〜っっ!!」
肉の焼ける音と臭いが鼻を突き刺す。
痛みが無限に襲い、全身を引き裂いていく…
気を失うには充分過ぎる程の、痛みだった。
気が付けば、床に寝かされていた。
縛られていた筈の手足は解放され、力無く投げ出されている…
口の中が痛い…唾液が染みる。
舌が通常よりも腫れ上がって、息がし辛く声も発せられない。
「………。」
重い体を引き摺って、部屋から出る。
辺りはすっかり暗く…見上げれば月が輝いていた…
嗚呼…苦しい…
こんなにに努力をしているのに…何故…っ
「……っ…」
堪え切れない涙が次から次へと溢れ出る。
声を上げる事が出来なくて良かった…
みっともない、こんな風に泣くだなんて。
だが…どんなに拭っても止まらないんだ…
《クウガ!何であんな事を!》
『うるせぇな長老、やりたくねぇって言ってんだろ。』
《陛下をお守りするんだぞ!何が不服なんだ!》
人が来た。
俺は急いで塀の裏側にあった、木々の覆い茂っている場所へ身を隠した。
『貴族ってのが面倒くせぇ……それに…』
《それに…?》
『俺よりもセンの方が強ぇ。』
《…ほぉ…》
『身のこなしも全部独学って聞いたし…』
俺の…話…?
悪口が出てくるかもと思い、少し身を乗り出す。
《ふむ…まぁ、月の部族期待の星とは聞いてたがな。》
『だろ?だから俺なんかよりも、頭も切れるアイツにやらせれば良いんだ。』
《たがな、クウガ…陛下から直接願われたらちゃんと》
『あのおちゃらけた奴なんか守ったってたかが知れてる。』
《お前!陛下の事何だと思ってるんじゃ!》
『ひとたらし。』
《何ということを!》
そう呟いたクウガに、殴り掛かるのは…
確か、海の部族長…ガウル様。
幾千もの兵士をお一人で薙ぎ倒したと言う勇姿は、何度か聞いたことがある。
父上が目の敵にしているとも…
「……。」
少し…ほんの少しだけ嬉しかった。
父上も他の部族達も、誰も褒めてくれなかったのに…
俯いた瞬間、野良猫が飛び出して行った。
「…ぁ…っ!」
驚いた俺はその場に尻餅を着いてしまい、近くにあった木々を揺らしてしまった。
《ん?》
『お?』
その音に気が付いたクウガが、此方に来る。
不味い…今の俺の姿は見られたくない…
裸足で、身につけている肌着も所々血で汚れている。
そして何より…質問をされても、舌が腫れてしまっている今の俺には答えられない。
ゆっくりと後ろに下がるしか…嗚呼、でももうそこは壁しか無い。
どうする…
どうするどうするどうする?!
『セン…?』
「…ぁ……」
俺の願い虚しく、簡単に見つけられてしまった。
俺の格好をただ見つめ、眉を顰めた。
《クウガ、何か居たのか?》
『長老…』
《ん?セン…どうしたその格好は!》
「……っ…」
ギクリと肩を跳ねさせた俺に、ゆっくりと二人は近付く。
優しく俺に触れたクウガは、苦しそうな表情をしている…
何で…何でお前がそんな顔を…
『長老、やっぱりあの噂は本当なんだな。』
《うぅむ……》
唸るガウル様と、真剣な表情のクウガ…
噂って何の事だ?
それよりも今は、この二人から離れたい。
藻掻こうとする俺の肩をしっかりと掴み、鋭い瞳を向けたクウガ。
離さない、そう言っている様にも思えたが…何故か殺気を放っていた。
萎縮した俺は、情けなくも動けなかった…
『セン、何をされた?』
「…っ…」
『セン。』
「……。」
《……すまんが…口の中を見せてくれるか?》
「…っ!…ゔっ!」
両頬を捕まれ、口を開かされる。
こんなみっともないモノは見せたくない…
必死に歯を食いしばり、手足をバタつかせる。
『落ち着け!セン!大丈夫だ…大丈夫だから!』
「うぅっ…!!んっ!」
《褒美に飴をやるから開けてくれ。》
『そんなんで落ち着くわけ………は?』
「………。」
飴…?
飴って何だ?
食べ物なのか?
美味しい物なのか?
そう目で訴えると、クウガは腹を抱えて笑い始めた。
『おま…ククッ…食い意地…っ…』
「………。」
《うむ、頬が落ちる程だ。》
にこやかに答えるガウル様と、涙を流しながら笑うクウガ。
恥ずかしさと腹立たしさで、笑い転がるクウガに一発入れてやった。
『お前…元気だな…』
「………。」
恨めしそうな視線を無視して、大人しく口の中を見せる。
途端にガウル様は哀しそうな顔をなさった。
《痛かっただろう……》
「……。」
その表情に感化され、俺の目からは涙が溢れ出した。
それを見たクウガは、また俺の肩を掴んだ…
とても優しい手つきで…赤子をあやすかの様に。
温かい温もりが…こんなにも嬉しい。
《ほれ、薬を塗ってやろう…少し我慢してくれ…》
「んぅ……ゔっ…」
ガウル様は苦痛に耐える俺を見ながら…優しく頭を撫でてくれた。
そんなやりとりを見て、クウガは何か決意したのか…ギュッと俺の手を掴んだ。
『…月の部族を追放する。』
《正気か?》
『あぁ、この事が口外されれば居辛くなるだろ。そしたらコイツは俺が面倒を見るし、将軍にだってなる…だから頼む。』
そう言い放ったクウガは、切羽詰まった顔をして頭を下げた。
そんなクウガの頭に手を置いたガウル様は、にこやかだった…
当の俺は、話の流れが掴めず呆けているだけだ。
《最善を尽しては見る、陛下にもこの旨を伝えよう。》
『助かる…』
「………。」
《だが、これだけではな…微力だぞ。》
『………。』
《決定的な何かが無いと…》
『チッ…』
また深刻な雰囲気になった二人…
すると、遠くから父上の声が聴こえた。
【ほぅ…これはまた上物を…】
{いえいえ、いつもご贔屓頂いてるので…}
不敵に微笑む父上と…商人…?
何か袋を渡している。
『ほぉー……こりゃまた…』
《丁度いいな。》
こちらもまた不敵に…いや、不気味に微笑んでいる…
と言うかそんなに身体を乗り出したらバレてしまう。
『……大丈夫、俺がついてる。』
「………。」
きっとあの瞬間から妬みは無くなったんだろうな…
父上は麻薬所持で李国から追放を受け、月の部族からも見放された。
それと同時に、ガウル様が陛下に話をつけ…俺は父上から解放された。
海の部族は、俺に対してとても暖かく迎え入れてくれた…
「………。」
時が流れ今は…
『センー!馬、乗ろうぜ!』
「……。」
見回りをサボっている将軍に溜息を吐く。
軽く首を振ったが、きっと無理やりにでも乗せる気だろう…
にこやかな笑みを浮かべて近付いて来る。
『まだ馬が怖ぇのか?』
「違います。そもそも」
〖あら?セン!貴方も馬に乗るの?〗
「ひ、姫様!なぜここに!?」
〖クウガとレイアが乗せてくれるって言ったから…〗
ちらりと姫様は目線を後ろに流した…
つられて見ると、そこにはジン将軍のご子息…レイア様が居た。
「レイア様まで…」
〘すみません…久し振りに乗りたくなって…〙
「……はぁ。」
〘それに、クウガも居ますし。〙
『とか言って、俺よりも姫様に用があったんでしょレイア様。』
〘そんなことありませんよ〜…〙
「………。」
そうなんだろうな…
短く溜息を吐いて、その場から立ち去ろうと踵を返した。
が、それより先に行くことは出来なかった。
「何です…クウガ将軍。」
『巡回なんて他のやつにやらせれば良いんだ。』
「ちょっ…」
ニヤリと笑ったクウガは、俺を持ち上げ馬に乗せた。
すると同じ馬にクウガも乗り込んだ。
『よし、やろうぜレイア様』
〘えぇ…動きますよ、リヒ。〙
〖う、うん…〗
ゆっくりと馬を勧め、騎射の間合いを定める。
「邪魔でしょう、降りますんで離してください。」
『お前が射るんだよ。』
「は!?」
『俺よりも上手いだろ?』
「いつも真ん中射ってるやつが何を言ってるんだ。」
『さあ?なんの事やら〜』
そう呟くと、馬を走らせた。
仕方が無いので弓を構え、的に狙いを定める。
「……ふっ!」
全て真ん中を射抜き、肩の力を抜く。
そこにレイア様と姫様がやって来た。
〖凄いじゃないセン!全部真ん中!〗
〘流石ですね、久し振りに見れて嬉しいです。〙
「……ありがとうございます。」
むず痒い…
未だ俺は父上からの呪縛から、抜け出せていないと実感する。
こうして褒められても素直に受け止められない…
〖セン…?〗
「…では、俺は巡回に戻りますので。」
『……やっぱ時間かかるよなぁ。』
〖なんの事?〗
『いーや、こっちの話。』
〘………。〙
少し乱れた衣服を整えながら、その場から離れる。
ふ、と門が騒がしいのに気が付いた。
「何かあったのか?」
{お下りください、セン副将軍!}
【離せ!私はそいつの父だぞ!】
「父…上…」
そこに居たのは、傭兵達に押さえつけられた父上が居た。
以前よりも見窄らしい姿で…
こんな人を俺は知らない。
{今、クウガ将軍を!}
「いい。大丈夫だ。」
{ですが…っ!}
「構わない…だからアイツには言うな。」
{…っ…分かり、ました…}
走り去って行く傭兵を横目に、父と向き合う。
あの件については、どの傭兵達にも知らされ…警戒対象人物となった。
何度か来ていたことは知っていたが、門前払いにされていたらしい。
まだ拭えていない恐怖が、また俺を支配し始める…
「何しに此方へ?」
【お前に会うためだ!】
「俺に…?」
【あぁ、あの時は私も必死だった…だから今度こそ!俺は!】
「………。」
俺に掴みかかる勢いで、そう騒ぐ父上。
「お、れは…」
『失礼、アンタはここから追放された身分の筈…何故ここに居る?』
「クウガ…」
俺と父上の間に割って入り、俺を下がらせた。
「俺は大丈夫だから…」
『何が大丈夫だ、震えてんの…自分でも分かってねぇんだろ。』
「………。」
クウガの言う通り、俺は震えていた。
情けない…
俯く俺を庇うように、さらに前に詰め寄るクウガからは…心做しか殺気を感じる。
【…チッ…】
『二度と李国に足を踏み入れるな、そう告げられた筈だ。』
【息子に会いに来る事の何が悪い?】
『コイツはもうアンタの息子じゃねぇ。』
【……は?】
『海の部族副長、リ・センだ。』
【なっ…!】
騒ぎを聞きつけたのか、レイア様がゆっくりと近寄って来た。
遠くで、心配そうに見つめる姫様は少し泣きそうな表情をしている。
〘控えなさい、貴方の目の前に居るのは…李国を支える海の部族将軍と、副将軍です。〙
【………。】
〘貴方の様な力では敵いませんよ。〙
レイア様の威圧感に狼狽え、父上は一歩引き下がった。
〘この状況が陛下に知らされた場合…〙
『アンタの首は間違いなく跳ねられるな。』
【…っ…!】
「父上……俺は貴方の事を完全に憎む事は出来ない。けれど、あの頃よりも今が幸せだと…俺は断言出来てしまう。」
『セン…』
クウガの前へ立つと、それを下がっていろと言わんばかりの力で腕を掴まれる。
「…俺は副将軍である前に、海の部族の者だ。」
睨む様にして、父上を見る。
力無く震え、その場に座り込んだ。
その瞬間、周りにいた傭兵達が取り押さた。
【離せ…離せぇ!!私は!私はまた…また上に立つものだ!】
「………。」
ゆっくりと閉まっていく中、父上の叫びが響き渡った。
完全に門が閉まる瞬間…此方に手を伸ばし不気味に笑う父上と目があう…
「っ!」
恐怖に足が竦み、後ろに引き下がった。
俺は…あの顔を知っている…あの顔をする時は何かを企んでいる。
嗚呼…何か…何か恐ろしいことを考えているんじゃ…
『セン、セン大丈夫だ。落ち着け。』
〘今日はもう休みましょう…〙
〖セン!あぁ…顔色が良くないわ、すぐ医務官を…!〗
『いや…俺が部屋まで送って行く。』
「大、丈夫…」
『黙ってろ。』
「………。」
〘クウガ…〙
『レイア様、この事は陛下に内密でお願いします。』
〘…分かりました。〙
肩を掴まれた状態で、俺は歩き出す。
クウガからは…怒りの雰囲気が伝わってくる…
『俺がお前を守る…だから安心しろ。』
「………。」
強く肩を抱かれながら、俺はクウガの体温に絆され…
意識を手放した。
お前はそんな顔もするんだな…
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