アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
第25話
-
「くそっ!なんででねぇーんだよ!」
出ない理由はわかっているのに悪態をついていないと心が折れそうだった。
こんな気持ちをあいつはずっと感じていたのか?
恋焦がれている相手からの拒否はこんなにも心を痛めるものだとやった最近になってわかった。
「今更遅いっつーの」
それだけ自分は白雪のことを傷つけたのだろうか。
いや、傷つけていた。
今まで白雪に拒まれることは一度もなかった。
何をお願いしても優しく笑い何でも自分の願いを叶えてくれた。
自分に対して好意がないことはわかっていたはずだ。
それでも何度も何度もこんな俺に白雪は『好き』を伝えてくれていたことに気が付いた。
いや、今までも見ないふりをしていただけで伝わっていた。
それを面白おかしくダチと話して。
「ほんとクズだな・・・。」
挙句の果てに自分の気持ちに気づき今更、白雪に気持ちを伝えるなんて
「信用されないのも頷ける。」
自分の言いたいことを伝えて白雪の言葉なんて聞いていなかった。
あんなにも白雪は伝えてくれていたというのに。
「お前の心はずっと悲鳴を上げていたんだな・・・」
先程、医者から連絡が来た。
「白雪くんの様子はどうかな?」
「記憶をまだ失っているということもあり少し混乱しているみたいです。」
俺がそう伝えると医師は不思議そうな声を出した。
「記憶喪失?」
「はい。あの時からずっと記憶を失ったままですけど・・・。」
一ノ瀬の言葉を聞いて医師は困ったように話した。
その内容に一ノ瀬は立ち止まった。
「・・・白雪の記憶はとっくに戻ってる・・・?」
「あぁ、確か彼が目を覚まして3日後かそれぐらいに記憶は戻っていたと思うよ?」
「・・・そう・・・だったんですね・・・。」
もしかして、伝えちゃいけなかったのかな?と医師は慌てたように言っていたが一ノ瀬はそれを適当に返し通話を切った。
「朔夜は記憶を失っていなかった・・・?」
いや、失っていた。だが、すぐに取り戻していた。
「どうして」
どうしてそれを今まで隠していたのだろうか。
「朔夜・・・お前が分からねぇ・・・!」
どうして記憶を失ったふりをしていたのか。
一ノ瀬が頭を抱えているとふと、前の出来事を思い出した。
その日は一ノ瀬がサークルの飲み会で帰りが遅くなった時。
玄関を開けるとそこには白雪が座って自分の帰りを待っていた。
「朔夜?こんなとこに居たら風邪ひくぞ。」
一ノ瀬がそういうと白雪は「ごめん」といいリビングに戻っていった。
いつもの様子と少し違っていたので一ノ瀬は白雪に声を掛けた。
「何かあったのか?」
一ノ瀬が聞くと白雪はぽつりと小さな声で言った。
「彰人は、昔の俺と今の俺、どっちが好き?」
こちらを向きながら言った白雪の表情は何かにすがるようなそんな表情だった。
「―・・・。」
あの時の俺はなんて答えただろう。
その後の記憶がどうしても思い出せない。
だが、白雪が記憶を取り戻していることを自分に伝えてくれていないということはそういうことなのだろう。
「本当にどうしようもねぇな・・・。」
こんな自分が嫌になる。
今更後悔したところですべて遅いのに。
「悔やむの後だ!とにかく今、朔夜は帰る所がない。」
帰るところがない上にお金も持っていないはずだ。
そうなったら今晩はどこかで野宿するつもりでいるかもしれない。
記憶を取り戻しているから他の男のもとに泊まっているかもしてないが白雪の性格上、誰かの迷惑になることは避けるはずだ。
こんな状況なのに卯月には出会わないで欲しいと思う自分は本当に自分勝手でクズだなぁと思った。
「とにかくあいつが行きそうなところ・・・。」
頭を振りそんな考えを投げ捨て白雪探しを再開したのだった。
勿論そう簡単には見つからないだろうとは思っていたが数日後、仕事帰りに探しに行こうと思っていた時に白雪のことを見つけたのだった。
それも、出会って欲しくなかった卯月と楽しそうに歩いていた。
その笑顔は今まで見たことがないぐらいにまぶしい笑顔で、その表情を見たときに胸がずきりと痛んだ。
前だったらこの痛みの理由もわからなかっただろう。
だが今ならわかる。
「朔夜」
一ノ瀬が白雪の名前を呼ぶとびくりと白雪の肩が揺れた。
嫌われたものだな。
今までの自分を思い返せば当たり前のことだが。
「・・・彰人・・・。」
白雪がゆっくりとこちらを向く。
あれからそんなに日が経っているわけではないがすごく懐かしい気持ちになった。
白雪に手を伸ばそうとすると卯月が白雪を守るように前に立った。
今までのことを白雪から聞いたのだろう。
卯月は表情こそは笑顔だったが目が全く笑っていなかった。
「今更、どうしたの?」
「朔夜を・・・迎えに来た。」
一ノ瀬の言葉に白雪は肩を揺らした。
「うーん・・・朔夜は今、僕の家で面倒見てるから大丈夫だよ?」
その言葉に何か言い返そうと思ったがその方が白雪が幸せなのではないか。
そう思うと何も言うことが出来なかった。
「・・・朔夜は・・・どうしたい?」
そんなの聞かなくてもわかっていることなのについ聞いてしまった。
もしかすると自分を選んでくれるのではと淡い期待を込めて。
白雪はなんとなく一ノ瀬の想いが伝わったのだろう悲しそうな表情をした後に「ごめん」と小さく吐いて卯月の手を握った。
「・・・・そ・・・っか・・・・。」
一ノ瀬は泣きそうになるのを堪えた。
今までどんなに辛くても泣かないで傍にいてくれた白雪。
自分に泣く資格なんてない。
卯月と白雪は人込みの中に消えて行った。
一ノ瀬は姿が見えなくなってもずっと見つめていたのだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
25 / 30