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ラムネ雪4
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「ああ、母さ…」
雪が母親の存在に気付いて、説明をしようとした言葉を早口で塞ぐ。
「珍しいわね?お友達?そんなところで、立ち話なんて…入って貰えば良いじゃない」
「…」
うん…まぁ、
確かに… そうか。
ナツキを見上げると、急に落ち着かない表情をした。
「…あがってく?」
雪が提案すると、目を見開いた。
「えっ…いいの?」
ナツキがじっと雪の承諾を待っている。
「うん…まぁ」
雪が頷くと、ナツキは口角だけを緩めた。
目は笑っていなかった。
スタタタと軽快な足音が聞こえたかと思うと、母親は玄関に居らず声だけになっていた。
「雪、母さん出かけるから。お茶とかは自分でやってね。茶菓子は冷蔵庫に玉詰屋のどら焼きがあるから。よろしくー…」
「あっ…う、うん…」
雪の声は当然母親には届いていなかった。嵐のようだ。
「…」
雪がナツキを見上げると、ナツキは少しだけ不安そうに見つめていた。
「じゃあ、こっち…」
雪が先に動くと、それに合わせてナツキも付いて行った。
玄関に入って靴を脱いで、廊下を歩いて行く。
後ろにナツキの気配を感じながら、何も話さずに距離を保ったまま雪の部屋に案内する。
「…入って適当に座ってて」
「うん」
雪が部屋にナツキを案内して飲み物を持ってくるからと言って再び部屋を出た。
妙な気分だった。
部屋に友人を招くのも、自分以外の人がいるというのも…
確かに、ナツキとは昔よく遊んだし、部屋に招いたこともある。
ナツキの両親が出張の時は『お泊まり』と称して、預かったこともある。
だから、何も不自然なことはない。はず…
けれど懐かしい感じもしない。
台所まで行って、急須にお茶の葉を入れてポットからお湯を注ぐ。
冷蔵庫にあるどら焼きを探すと目の前にあったから適当にとって、お盆に乗せる。
急須と湯飲みを2つ乗せて、雪は自分の部屋に戻る。
「…あ、ゆきちゃん。おかえり」
ガチャっと扉を開けると、ベットにもたれかかるようにしてナツキが座っていた。
長い足を折りたたむようにあぐらをかいていた。
「ゆきちゃんの部屋変わってないね」
見渡すと、ベットと机とタンスと本棚。
大きな家具はそのくらい。
机の上には小さなラジオが1つ。
本棚にはたくさんの本が並んでいるが、コミックや雑誌の類ではなく、全て仏教に関する書籍など、分厚い資料が多い。
雪はお盆を机の上に乗せる。
「…こっちの座布団使って」
「ありがとう」
直にフローリングの床に座っているナツキに気付いて、タンスの中から座布団を出す。
受け取ったナツキはそれを尻にひいて座った。
「前はよくゆきちゃんの家に泊まったよね」
ナツキは、雪と同じことを考えていたらしく、懐かしそうに呟いた。
雪は、机の上に置いて急須からお茶を注いだ。
「なっちゃんが、畳で寝るのは嫌だって言って…俺の部屋のベットで2人で寝たりしたな…」
雪が2つの湯飲みのお茶を注ぎながら、そう言った。
畳の部屋は、御堂の近くにあり、催事などでよく使われる。
寝泊りするための寝具なども置いてあるが、幼いナツキには怖かったらしく、その部屋で寝ることを嫌がった。
確かに、お墓なども近くなるし、普段とは違う環境に緊張もあるだろう。
何よりトイレも遠いことから、雪の部屋のベットで2人で寝ていた。
狭いシングルのベットだったが、ナツキは幼かったから2人で寝ても特別、狭苦しいと感じることはなかった。
「今、一緒に寝たらきっと窮屈だろうな…」
幼かったナツキの寝顔は天使のようだった。
すやすやと静かな寝息を立てるナツキをみた母親が、あまりの愛らしさに悲鳴を我慢して写真を撮った話は、何十回も聞かされたし、ナツキに比べてアンタは同じ人間なのにこうも違うのねと、哀れまれた話も耳にタコができるほど言われた。
そんな思い出もあったなぁと雪はうんざりした。
湯飲みのお茶は、ふわりとあたりに芳ばしい香りが部屋中に薫る。
「なっちゃんは…」
そういえば…
と思い出したことが沢山ある雪が、振り返ってナツキを見ると、ナツキはじっとこちらを見上げていた。
どこか寂しそうなナツキに気づいた雪は、湯飲みを持って1つをナツキに渡して、1つは自分で持つと隣に座った。
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