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ラムネ雪6
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「い、いないけど…」
すると、ナツキは手渡したお茶を床に置く。
コトッ
という陶器とフローリングの木材が触れた音が耳についた。
「じゃあ、キスしたことある?」
「えっ…??」
雪はさらに動揺した。
ナツキがじっと真剣に雪を見つめて、答えを待っている。
その表情は、冗談で答えて流してくれるようなものではなく、凄みと焦りを含んでいるような気がした。
「…ない…けど……」
「じゃあ、セックスした事は?」
「はあっ…ッ??!」
問いに驚いた雪は動揺しすぎて、思わず頬を赤らめてしまう。
セックスという言葉は聞き慣れないどころか、言葉自体発したこともない。
確かに、思春期の頃に如何わしいものが男子たちの間で流行したし、不本意に見せられたこともあるが、その頃からあまり、性に関して興味がなかったために、身近に感じてこなかった。
もちろん、それが絵であろうが、映像であろうが。
「ないよね?」
ナツキの剣幕に押されて、雪は耐えられなくなり視線を逸らす。
「ゆきちゃん」
雪の口から、答えを聞くまでは許してくれなそうなナツキの視線が突き刺さる。
「…な、いよ…」
ナツキにしか聞こえないような小声で言う。
そろりとナツキに視線を戻すと、ナツキは瞳をすがめて『ふーん』と雪を見つめていた。
どういう感情がこもっているのか分からないが、ナツキは明らかに雪の知らない男の顔をしていた。
「ゆきちゃんって、1人でしなそうだしね」
「なにを?」
「オナニー」
「!!!??」
端正な顔立ちのナツキの口から、次々に飛び出る卑猥な言葉に、とうとう雪は言葉を失った。
どういったことをするものなのかくらいの知識はあるが、こんなにあけすけに会話をした事はない。
「ゆきちゃん、童貞でしょ?」
無知の部分にグサリと止めの言葉が刺さる。刺さった言葉が、雪の動きを鈍らせる。
なんでもない会話を普通にするみたいなナツキの一方で、雪は火が吹いたかのように顔を真っ赤にした。
「な…ッ!!?」
言葉をつまらせ、真っ赤な顔面の雪の沈黙は、何よりも真実を示していてナツキはじっとその様子を見つめていた。
ナツキは、年上の癖に童貞であることを隠せない雪を嗤うわけでも、セックスどころかキスの経験もない事を揶揄うでもない。
男としては、致命的に経験の少ない雪をじっと見つめ、何か1歩1歩雪を追い詰めるかのような、妙に切迫した雰囲気を出す。
「ゆきちゃんって…このお寺の跡取り息子でしょ?」
「えっ…」
まぁ、確かに…
兄弟はいるが、雪が積極的に仏の道へ進むので、そういうことになる。
ナツキから何だか危険な雰囲気がした。
雪が今まで感じたことない危機感のため、どうしたら良いのかわからない。
さっきの『お茶が熱いから気をつけてね』という危険とは種類が違う。
「跡取り息子なのに、20歳すぎて童貞って…まずいんじゃないの?」
「…」
…確かに、そうかもしれない。
雪の心臓の音が、だんだん早くなっていく。
「恋愛の1つでもしないと…結婚とか。そう言うのできないんじゃない?」
世間とはそう言うものなのだろうか。
ご縁がないものとも思っていたが…
疎い雪には、よく分からないがナツキの言葉にはなんだか説得力があった。
母親に『ちょっとは男として遊んできなさいよ!』と言われた言葉が妙に現実味を帯びてくる。
あれはそう言う意味だったんだろうか…と生々しく感じて、恥ずかしくなる。
そんな事を息子に言っていたと思うと母親の真意を疑う。
「僕が手伝ってあげようか?」
「…っえ?」
ナツキは口角を上げて雪を見つめていた。
その瞳は挑発的な色気があった。
「別に深く考える必要はないんだよ」
ナツキは、じりじりと雪との距離をつめる。
「でも…」
ナツキは雪の手からするりと湯飲みをとって、床の上に静かにおいた。
湯飲みをさらっていった指先の感覚が妙に残った。
「目を瞑ってれば、男か女かなんて分かんないし…」
雪の背中は妙に汗ばんでいた。
ナツキが近づくたびに呼吸が浅くなるような気がして、息が苦しくなる。
先ほどから、心臓の音も早い。
彼が喋るたびに、妙に唇が気になり艶やかさを意識してしまう。
「それだと…」
「大丈夫だよ。気持ち良くなったら全部わかんなくなるから」
雪が何かを言おうとするたびに、ナツキがその先の思考の逃げ道を塞いでいく。
ナツキの指が雪の頬に触れる。
突然のことにビクッと慄く。
「ゆきちゃん」
人に手が頬に触れることなんて、叩かれた経験しかないため、同時に体にギュッと力をいれる。
敵意ではないのに、逃げなければいけないと思うこの焦燥感は一体なんなんだろう。優しい声で呼ばれるたびに表情が強張る。
「そんなに緊張しないで」
ナツキの指先が触れると、徐々に頬を包み込んで、親指で頬を撫でる。
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