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ラムネ雪9
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「ゆきちゃん」
ナツキが名前を呼ぶ。
雪の意識はまるで陽炎のようにゆらゆらと不安定に彷徨っていた。
茫然と見上げていたナツキが視界から消えた。
頭の中がチカチカと点滅を繰り返し、耳の奥ではどくどくと目まぐるしく血液が駆け抜けていて、収縮と膨張を繰り返している。
これが所謂、吐精というものなのだろう。逆向きに生まれるような、開放感が雪の中にあった。
雪の体は全身が熱く、潤んだ視界はまだぼやけている。
覗き込んでいたナツキの目は、愛おしそうだった。どうしてそんなに、壊れるものを扱うかのように優しい瞳を向けてくれるのだろう。
「…ゆきちゃん」
名前を繰り返し呼ばれて徐々に意識がはっきりしてくる。
力を失い、溶けるように呆然としていた雪は体に力を入れる。
ナツキの与える得体の知れない毒気に全身が痺れているようだった。
なんとか、上体を起こして床に座る。
「……なっちゃ…ん?」
雪がまだ痺れていうことの効かない体を動かして座るとナツキは服を脱ぎ捨てていた。
あらわになるのは、細く筋肉質な身体。しっかり筋肉と骨格が浮き出ている。
妙にアクセサリーのロザリオが目についた。
雪とは比べ物にならない体つきは、美術品やファッション雑誌を見ているかのような、現実離れしている美しい肉体美で、まじまじと見つめる。
ヘソの下から陰毛へつながる、産毛が妙に生々しく感じた。
ナツキの窮屈にしていたズボンのボタンは既に外れていて、ボクサータイプのパンツが見えている。目の前の若者は、自分とは住んでいる世界が違うんだと存在が遠くなる。
「クリスチャンだったっけ?」
雪が聞くと、ナツキはキョトンとした表情になる。
「えっ…うん。一応そうだけど…」
ナツキは頷いた。
「あんまり熱心な家じゃないけど、小さい頃は礼拝とか行ってたよ」
「そう…」
雪は、ナツキの首から下げているロザリオに手を伸ばして指先で転がした。
「…でも、これはファッションでつけてるやつだよ」
「え?そうなの?」
「…」
「…」
驚いて指を引っ込める。
そんな区別もつかないほど、雪はファッションに疎いのだ。
っていうか、もっと他にいうことはないのだろうか?
ナツキは疑問だった。
なんともいえない妙な空気が2人間に流れた。
「…ゆきちゃんって、なんも知らないね」
「…」
確かに。
ナツキの言う通りだと思った。
世の中の流行について行けないと端から否定している無明な自分が恥ずかしくなる。
母親のように、何でもかんでも流行に乗っかって、ミーハーのように追いかけ回すことはしないまでも、時代を柔軟に取り入れなければ成長も進化もない。
他者との連絡手段という携帯電話の機能のみに期待するのではなく、人並み程度に使いこなせるようにならなければ、時代錯誤も甚しい。
それに新しいものを否定するのは、その考え方についてけない古い考え方の人間することではないだろうか。なんでもやってみなければ分からないのに、無茶だ無謀だと若さを否定して前へ進むことをやめてしまう。
そういう考え方は良くないと思うものの実際、こんな身近に自らの固定概念があったことに驚いてすらいる。
「そんなことじゃあ、すぐに騙されちゃうよ?」
「えっ?」
ナツキはクスリと自嘲した。
「悪い女に引っかかって…騙されて…」
「?」
ナツキは、その先の言葉を途中で止めた。
「ううん」
ナツキは首を横にふった。
そして『なんでもない』とつぶやいた。
「…僕のこと否定しないと、ゆきちゃんの大事なものが奪われちゃうよ?」
悪い大人と言ったり、否定すると言ったり…
そんな言葉を言うくせに、言うたびナツキはとても悲しそうだった。
さっきから、その表情は哀感が漂っている。
「大事なもの?」
否定しろというくせに、否定して欲しくなさそうな表情を浮かべている矛盾したナツキの心は、別の何かを欲しているみたいだった。
「そうだよ」
ナツキは雪の手を包み込んだ。
長くて綺麗な指だった。
けれど、その指は変な滑りけを帯びていた。花に似た甘い香りがふわりと薫る。
「突き飛ばして、気持ち悪いソドム野郎とか…罵らないと」
意味は分からなかったが、綺麗な言葉ではないということだけはわかった。
「殴ってもいいし、叩いてもいいよ」
だから、どうしてそんな悲しそうな声色で、今にも泣き出しそうな表情で言うのだろうか。
「だから…」
僕を否定して…
その言葉をナツキはつぐんだ。
けれど、雪にはそう聞こえた。
「ナツキ」
雪がナツキを呼んだ。
初めてじゃないだろうか。
ナツキは、怯えたような表情をして雪をみた。
「なにが…」
じっと真剣に見つめてくる雪の視線に耐えられなかった。
次の言葉を最後まで聞く恐れで、ナツキは雪の唇を無理やり自分の唇で塞いだ。強引に舌を捻じ込ませる。
口腔内の舌は、まるで脳味噌のない軟体動物が、本能のままに激しく交尾をするかのようだった。絡みあい、体液を出し合いながら暴れ回る。
耽溺した生き物が、繁殖できる唯一の相手を見つけたとばかりに、愛液を撒き散らしながら相手を貪り、今まで知り得なかった快感が産まれる。
これが本当に、発情期の軟体動物だったら、孕まされていたか、もしくは卵を生み付けられていたかもしれない。
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