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『おれ、おっきくなったらかおるくんをおよめさんにするの!』
『俺もまーちゃんのおよめさんになりたいな。』
*
ピピピ、と軽快な音を立てた目覚ましをとめ、藍沢薫(あいざわかおる)はベッドから起き上がった。
(夢か。)
随分懐かしい頃の夢を見た。
まだ小学校に入ったばかりの頃、隣に住んでいた2個下の幼馴染と交わした約束。
大人になったら、結婚する。
初恋はその幼馴染だった。きっと幼馴染も自分が初恋だっただろう。
男同士では結婚できないと知って、幼馴染が父親の転勤の都合で引っ越して、その恋は終わったけれど。
「よし、行ってきます。」
祖母の写真に挨拶をして家を出る。
朝食はコンビニで菓子パンを買って、勤め先で食べるのがいつものルーティンだ。
薫はゲイだった。
自覚したのは早かったと思う。
初恋も男だったし、その後も好きになるのは男だけだった。
幸いにも友人はゲイに理解のある人ばかりだったが、家族は違った。
カミングアウトした後、両親は恋愛に触れてこなくなったし、薫がその話をしようとするとあからさまに嫌がった。
家族で唯一、薫の味方だったのが祖母だった。
祖父が亡くなり、1人でのんびりすごしていた祖母は、薫が男が好きだと告げても、そうなのかい、としか言わなかった。
どんな人が好きなんだと聞かれ、好みの俳優の顔なんかも聞かれ、祖母が少女のようにいわゆる恋バナを楽しんでいたのをよく覚えている。
そんな祖母も、昨年亡くなってしまって、薫は家族とは疎遠になっていた。
「おはようございまーす。」
「おはよう藍沢くん!」
薫の勤め先は老人ホーム。
介護士として働いて早5年、この職場にもすっかり慣れ、同じケアスタッフとも仲が良かった。
「またここでご飯?しっかり食べてるの?」
そう言って薫を気にかけてくれるのは、薫が入職した当初からいる宮村(みやむら)だ。
頼れるベテランである。
「夜はちゃんと食べてますって。」
「まあ、藍沢くんはお料理好きなんだもんね。」
「はい。」
祖母の家によく行っていた薫は、料理を始めとした一通りの家事を祖母から仕込まれている。
特に料理は楽しくて、休日は少し凝ったメニューを作ることもあるくらいだ。
「昨日どうだった?大変だったでしょ。アイツいたもんね。」
顔をしかめる宮村のいう【アイツ】とはフロアリーダーのことだ。
この老人ホームは3階まであり、それぞれのフロアにリーダーがいる。
フロアリーダーはその日毎に各階に配属されるケアスタッフをまとめ、各階のケアを運営する。
さらに全体をまとめるケアリーダーがいて、ケアリーダーはフロアリーダーから情報を集め、看護師など他のスタッフとも連携を取りながら、ホーム全体に対してケアスタッフがどのように動くかを決めている。
ところが2階のフロアリーダーの真城(ましろ)は人と感覚がズレているのか、他のケアスタッフから反感を買ってしまうことが多い。
また看護師たちとも仲が悪く、【アイツ】呼ばわりされていた。
「昨日は深町さんもいなかったし……藍沢くんお疲れ。」
深町(ふかまち)はケアリーダーで、薫が入職した時に薫をトレーニングしてくれた人でもある。
そして現在の薫の片思い相手だ。
(まあ、片思いっていっても脈アリな気がするんだよなぁ。)
こんな風に自信を持つことは滅多にないのだが、そんな薫でも脈アリだと思ってしまうような態度を深町はとる。
「おはよう、藍沢くん、宮村さん。」
「あっ、深町さんおはようございます。」
「おはようございます。」
噂をすればなんとやらである。
深町はスタッフルームの奥にある自分のデスクに荷物を置くと、薫と宮村の近くの席まで歩いてきた。
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