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Crystal-2
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こんなに綺麗なものが、何故「枷」なのか。彼を縛っているようには見えないし、アクセサリーの先に鎖が繋がっている訳でもない。
「何故、コレが枷だと?」
「わたし達は飛べない。これがある限り、わたしは飛べないんだ。」
彼の指先には、大きな純白の翼。彼が言うには、翼があるせいで飛べないらしい。そんなバカな事があるのだろうか。鳥だって翼を動かし、風に乗って空を飛ぶ。飛行機だって、風を受ける翼がついている。その翼が何故、飛べない枷になり得るのか。
「君の言う事は滅茶苦茶だな。こんなに綺麗で白い大きな翼が……。」
「翼?……そうか、リュウにはこれが翼に見えるのか。」
彼は嘲けるように笑った。それは、自分を馬鹿にされたと言うよりは何かを諦めたような悲しい笑い方だった。そして、それが無感情に見えた彼が初めて見せた感情だった。
私は何だか腹立たしかった。綺麗なものがそんな顔をすれば、誰だって少しは気になると思う。特にその表情は、天使が人間を見下しているかのようで、慈悲深く美しい純粋な存在に見える彼にはひどくアンバランスに見えた。
「ああ、でも。わたしを白いと言った人間はいた。わたしは誰から見ても白いらしい。」
「人間が?」
「確か、宝石商と言ったか。わたしをブランと呼んでいた。」
その人はきっとフランス人なんだろう。もしくは、フランス語を習っていたに違いない。ブランとは、フランス語で白を意味する単語だ。シンプルだけど、自分が日本人だからか洒落た名前に見える。
「どんな人だったんだ?」
私以外にいたという存在に興味が出て、つい問いかけた。彼は当時を思い出しているのか、少し黙ってから口を開いた。
「皆を、宝石に例えていた。美しい物が好きだと言っていた男だ。」
「……それだけ?」
「他には何も覚えていない。」
思い出す時間の割には、情報が少なすぎた。よほど興味が無かったらしい。がっかりすると同時に、所詮夢じゃないかと思い直す。これが私の限界だったんだろう。
「リュウより、年上だ。」
「え?」
「いや、何でもない。」
彼が何か言ったような気がしたけど、よく聞こえなかった。彼はまた目を伏せて何も言わなくなってしまった。静かになったこの世界で、黙ったままなのは少しいたたまれない。夢のくせに居心地が悪い。何かないか。
「君は、何と?」
「何が。」
「君は、何に例えられていたんだ?」
省略しすぎて伝わらず、聞き返されてしまったのできちんと聞いた。少しイラッとしたが、彼が人間じゃないと思うと伝わらないのも当たり前な気がした。
「わたしは、クリスタルと呼ばれた。水晶のことだろう。」
だろうなと思わず納得した。何も知らないような彼は、透明な水晶そっくりだ。これ以上話が続かないだろうと思った私は後悔した。意外性も何もない話題を何故出した。
「彼を連れて行った仲間は、ラピスと呼ばれていた。わたしも、ラピスと呼んでいた。」
思わず振り返った。彼は、仲間の話になると他の話題より詳しく話してくれるようだ。そして彼の手は、腕輪にあった。とても大切な物に触れるように、腕輪を優しく包んでいた。
その腕輪は深い藍色の石で出来ていた。あまり宝石には詳しくないが、「ラピス」というのは恐らくラピスラズリから来ているのではないかと思った。
「もう、時間だ。また来る日を待っている」
思っても無さそうな声で、別れを告げられた。ここに来た時と同じくらい無感情な表情と声で送られて、急に周囲が暗くなった。黒く染まって、落下していく感覚に見舞われる。落ちたと思ったと同時に、私は目を覚ました。
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