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Citrine-4
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それで、どうだったか。――そうだ、二番目は。泣き喚く女の手を取ったのだ。そして、宝石商に「シトリン」のようだと言われた瞳を女の目に合わせた。
「不安ですか?何もかも、置いて逝くことが。」
「だって、何もかも消えちゃうじゃない!私の努力が!私の財産が!人々が無視出来ない私の力を、こんなにあっさり消してしまうなんて!」
人間とは、こうも面倒なものなのか。何の意味もなさない物質が、周囲の評価が全てとは。生きる為にそのような面倒が必須なのか。分からない。
不思議なものだと見るわたし達の様子をよそに、二番目は笑っていた。
「私は消えませんよ。私と結びついたこの事実も。」
「でも、それが何の役に立つと言うの!?」
「宝石商は言いました。私は、シトリンという宝石と同じようだと。」
確かに、二番目は「シトリン」と呼ばれた。それはいつもの宝石商の気まぐれだ。その呼び名と、彼女の嘆きとは何の関連も無い。
「シトリンの石言葉は、「繁栄」だそうですよ。私をお守りにでもしてみます?」
「どうせ、魂を送った先まで着いて来てくれないくせに。枷があるからダメだって言ってたじゃない!」
わたし達に着けられた枷。枷を外さなければ、わたし達は飛べない。いつの間にか、二番目はわたし達の事を話して聞かせていたようだ。
「覚悟は既に決めていますよ。貴女の最初で最後の友人だそうですから、どこまでも共に居ようと。枷なんて、外してしまえばいい。」
そうして、二番目は首からかけていた鎖を取った。そして、そのままわたしの方へやって来た。ゆっくりと二番目を見上げると、二番目はわたしの首にその枷を着けた。
「君にこれをあげます。黄色は私の色、見る度に思い出して下さいね。」
そうして、君に「変化」があらんことを。
二番目はそう言って、あの女の魂と共に行ったきり戻って来なかった。
「わたしに、二番目が何を求めたのかは分からない。変化をとは言われたが、どんな変化を望んでいたのかもう聞く事が出来ない。」
「なるほどな。」
リュウイチは、そう言ったきり黙った。何かを考えているようだ。あの女にとって、二番目は友人であり守り神であったらしい。「女帝」と呼ばれたあの女にとって、周囲は所持品であり、擦り寄るだけの狐狸妖怪。孤高の女帝などと呼ばれる事もあり、その磨かれた手腕は見事だが敵も多かった。そんな女を、二番目は「その座に一番相応しい女性」と言っていた。
「黄色は、二番目の色。二番目が居ないなら、黄色は無い。」
「ふーん……。」
目の前で枷を外し、戻らないほど飛ぶことの出来た二番目を羨ましいと思った。そう思う、自分に気付いた。わたしも飛べればいいのにと、その時から考えるようになった。
「一番目に続き、二番目も落ちた。次は誰が落ちるのだろうかと不安そうに三番目が話していた。役目を果たせない事は、恥ずべきことだと五番目が言った。」
「結局は皆、落ちたのにな。」
「確かに、そうなのだが。それでも、役目以上に落ちる事を優先した「何か」が……わたしには分からない。」
分からない事は、分からない。理解出来ない。どれだけ考えても。だから、私はここにいる。落ちることも、飛ぶことも無く、枷を付けられたまま。
世界の端を見据える。わたしは外の世界を感じる事が出来るため、もうすぐ夜明けである事が分かった。夢の時間はここで終わりだ。
「また会おう、リュウイチ。時間だ。」
「いつ会うか分からないけどな。」
目の前から、リュウイチの姿が消える。白いだけの世界に戻ったことを確認して、わたしは再び目を閉じた。
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