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Citrine-3
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リュウは深く息を吐いた。とりあえず、わたしにリュウと呼ばれるのはあまり好ましくないようだ。しかし、わたしは過去に彼が名乗った「リュウ」という名前以外、彼を指す名前を知らない。どうしたものだろうか。
「私は、山岡 隆一だ。」
「リュウイチ……。珍しいことだ、日本人か。」
「珍しいのか?」
「死神や悪魔、天使という存在を信じていたのは西洋が中心だからな。その周辺国出身がわたし達とよく結びついていたように思う。」
詳しい事は、わたしにも分からない。考えた事も無いからだ。結びついた人間の法則性など。あるがまま、わたし達は「そういうものだ」と受け入れる。
「まあ、日本にはあまり馴染み深くはないよなぁ。物語上の、仮想生物的なものだし。」
「わたしは、ここに生きているのに妙なものだ。」
「それはそうだろうよ。」
リュウイチが笑う。だが、楽しいという感情を表す笑顔ではない。複雑に多数の感情が混ざった末の笑顔と言うべきだろうか。この表情を見ると、胸が痛い。他の色を見た時のように。
「ちょっと話が逸れたな。その黄色の……シトリンだっけ?どんな人だったんだ?」
リュウイチの言葉に、遠い記憶を追う。二番目が落ちたのは、一番目が落ちてからそう経っていない頃のことだ。あの頃は、人間が二人も来たと騒いでいたような気がする。主に三番目が。
「わたしと似ていると、あの女は言っていた。」
「あの女?」
「二番目と一緒に落ちた女だ。リュウイチよりも年が上のように思う。」
この世のすべてを手に入れてやると息巻いていた女だ。強欲なものだと皆で驚いた記憶があるが、二番目だけが納得のいかない不満そうな表情をしていた。あの時から、二番目は人間になろうと思っていたのかも知れない。
「似てるって、無表情な所が?」
「表情というものを動かさないのは、わたし達という存在が感情というものを自覚しないからだ。あの女はそういう所がわたしと二番目を似ていると判断したのかもしれないが。」
あの女の事を理解するつもりは無い。理解出来ない事は、わたしがよく知っている。だから、わたしは落ちないのだろうと六番目は言っていた。他の仲間と違って、わたしだけは理解が出来ない。
「感情、無いの?」
「普通に驚いたりはするので、無い訳ではないと思う。よく分からない。」
「本当に……つくづくおかしいと思うよ、君は。」
リュウイチは何かを言おうとした。そして諦めて、そう言った。わたしはわたしをおかしいと思った事は無かった。仲間達も誰も、わたしをおかしいとは言わなかったから。
「で、シトリンは何で落ちたの?」
「死してここへ来た女がひどく癇癪を起こした。死にたくない、まだこの世の全てを手にしていないと言って現世に戻りたがった。」
あの時は酷かった。この世界が壊れるかと思うほど暴れ、泣き喚いていた。美しい容貌そのままに、どれだけの財宝を手にしていても。他の人間達に「女帝」の異名を付けられて傅かれようとも、手にしていない物があるのだと。
「我儘じゃないか、それ。欲深いな。」
「どうしても未練が強かったのだろう。まるで幼子のようだった。」
わたしに美醜は分からない。ただ、わたし達の姿はあの女にとってとても美しく見えたようで、しきりに己の所有物として扱いたがった。宝石商はあまりそれをよく思わないようで苦笑していたが。
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