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にじゅうよん
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「……い…………お……おい!」
「…!あ、すいません…ちょっとぼーっとしてました」
帰り道、どうしても気分が晴れなくてとぼとぼと歩いていたら会長の話を聞きそびれていた。
何やってんだ俺…
「…疲れてんなら早く寝ろよ」
あぁ、また頭に手が置かれた。
優しくぽんぽんと撫でられるなんて何回もされてるのに、やっぱりまだ慣れない。
嬉しいのに、悲しい。
苦しいけど、離れたくない。
この人の横を取られたくない。
でもどこか颯爽と居なくなって欲しい。
どうしたって相反するこの気持ちは抑えが効かない。
「会長…会長って好きな人いるんですよね」
「ん?あぁ、いるよ」
耳に届くその言葉が、苦しい。
「なら、その人と帰らないんですか?男同士なら誘いやすいでしょう」
もうこれ以上、近付きたくない。
もうこれ以上、好きになりたくない。
戻れないところまで、行きたくない。
「……別にいいんだよ。類と帰りたいんだから」
あぁ、ダメなんだって。
期待なんてするなよ、この言葉の意味なんてこれっぽっちも俺が思うものじゃないんだから。
「そう、ですか」
覇気のないその声に少し会長は立ち止まったけど、またすぐに前を歩き出した。
肩に乗るカバンがいつになく重い。
もう全部捨てちゃいたい。
全部から逃げ出して、こんなチクチクする気持ちを忘れたい。
恋なんて、辛いばっかだ。
「おい、着いたぞ…って類どうした」
え、と思って顔を上げるとぽろっと目から何かが溢れ出した。
涙だと気づいたときには、もうダメだった。
「…ふ、っ………ッ…」
俺、一日で何回泣くんだよ。
こんな涙もろかったっけ。
「ちょ…ど、どうした?」
中々見れない慌てふためく会長をぼやける視線の先に見ていたら、なんかやっぱり好きなんだよなって心が暖かくなった。
「…ぐすっ…も、もう大丈夫です。すいません急に、ちょっと苦しくなって…でももう本当に大丈夫なんで!」
家はもう目と鼻の先。
ここは逃げるが勝ちだと思って会長の返事も待たずに玄関へ走り出した…
「あっ!!…っと捕まえた」
…のに、簡単に腕を掴まれてしまった。
「え、えっと…あの、もう大丈夫です!」
何が大丈夫なんだよ、なんてセルフツッコミしそうだけど、そんなことはどうでもいい。
早くその手を離して!!
「…急に泣いといて、逃げる気か?」
ぎく。
痛い所をつかれてしまった。
「でも…あの泣いてる姿なんて見られたくないですし」
「…類、今家に誰かいるか」
「え、いや誰も…」
「なら入るぞ。ほら、鍵」
え、え、えっ!
そんな声を上げる暇もなく、ただ強く、でも優しく、引っ張られる身体に従うしか無かった。
まだ混乱してるのに慣れた手つきで鍵を取り出して玄関の戸を開けてしまう。
ガチャ、とドアを開けた時、自分以外の影があることが何故だか妙に胸にきた。
「…んで、なんで泣いたの」
リビングのソファにまるで自分家かのようにどかっと座った会長はそう聞いた。
馬鹿正直に、あなたが好きすぎて涙が出ました、なんて言ったしまったなら俺は自殺でもするだろう。
かと言って上手い言い訳も思いつかない。
「…分かり、ません。ただどうしてか…辛くて苦しくて、気持ちのやり場がなくなって、いつの間にか泣いてました…」
バレない嘘の付き方は真実も混ぜること。
誰に教えられた訳でもないのに、そんなどうでもいいことは覚えている。
「…失恋なんて誰だって経験するもんだ。そんな思い詰めんなよ」
……きっと、会長は雅也を好きな俺に言ってる。
でも会長を好きな俺にも言われてる。
「そういうもの、ですかね…でももう少し時間かかりそうです」
もう少し…なんて。
多分もうずっと会長から抜け出せない。
いつか、いつか会長が好きな人と結ばれたらその時、俺は笑顔で祝えるように今から諦める準備をしよう。
嫌なとこ見つけて、会長より素敵な人見つけて、そうやって徐々に忘れて…
そうだよ、俺が会長に出来る事といったら、ただ命令に従う執事のようにこの気持ちごと捨ててしまうことだけ。
あぁなんでこんな簡単なことに気づかなかったんだろう!!
少し冷静に考えてみれば答えはもう出ていたじゃないか。
「…会長は好きな人とどうなんですか?」
会長の好きな人の情報を掴んで、上手くいくように細工したらめでたくハッピー!
俺が死ぬほど傷付くだけで、誰も不幸にならずに、誰にも知られずに終わることが出来る。
「脈ナシ、だけど最近俺の前で色んな表情見せてくれるようになった」
「そうですか!良かったですね」
ほら笑えるじゃん。
なんだ、こんなものだよ。失恋なんて。
…苦しくて、苦しくて、もう逃げたくて、壊れそうだけど。
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