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……………
………
…も〜。分かってるってば〜。
あの甲高い声で鼓膜をノックする、奴の頭を叩いてやる。
今日も6時ちょうどを指す奴と目が合う。
…あれ、ピピちゃんがいない。
寝転がったまま反対側を確認するが、そちら側にも姿は無い。
すると右足の辺りにゴワゴワしたものが触れていることに気づいた。
それを掴み、引っ張って見てみると、つぶらな瞳と目が合う。
「あ〜!ごめんピピちゃん、また寝相悪かったね!」
どうやら寝ている間に枕の横から足元へ、追いやってしまっていたようだ。
身体を起こし布団を畳む。
枕の横にピピちゃんを置き、ベッドを降りる。
…少し居た堪れなくなって、去り際にピピちゃんのピンと伸びた耳を撫でてあげた。
「お母さんおはよう」
着替えを済ませリビングのドアを開けると、エプロンを着てキッチンに向かうお母さんがいる。
「あ〜、羚!ちょっと卵割っておいてくれない?」
「うん、いいよ。
っていうか、卵焼き僕が作るよ」
冷蔵庫から卵を2つ取り出し、皿と菜箸を用意する。
「えぇ、…本当に良いの?」
お母さんは申し訳なさそうに眉を下げた。
口角を上げ、ニッと笑ってみせる。
「大丈夫だよ。今日ぐらい手伝わせて」
すると観念したように頷いて、プチトマトを洗い始めた。
まな板の横に置かれている2つのお弁当箱は、まだスカスカだ。
突然のことで慣れていないのだろう。無理もない。
高校生になってから1年と5ヶ月ほど経つが、ずっとお昼は食堂で済ませていた。
いつも雄人(たけと)が食堂でお昼を済ませるから。
1年生のときから雄人とは同じクラスだ。
初めて会ったとき、僕の2倍ぐらいあるんじゃないかって思ったぐらい雄人は大柄で、少しびっくりしたけど、いつも僕のお昼を賑やかにしてくれる。
僕のお椀にジュースやアイスを混ぜて、それを僕が食べると本当に楽しそうにするから、僕も楽しい。
1年生のとき仲良くしていた雄人以外の友達は、2年生になってクラスが離れてしまった。
でも、佳と恵吾(けいご)とはすぐ打ち解けた。
2人はもともと雄人と知り合いだったみたい。
溶いた卵を半分ほど流し込む。
「…羚?何笑ってるの?笑」
微笑みながらお母さんが僕の顔を覗き込んだ。
「えへへ笑
…昨日恥ずかしがり屋の友達が、『また明日』って言ってくれたんだ〜」
するとますます分からないと言うように、お母さんは「えー?」と声をあげる。
そう、僕は亜海くんのことを考えていた。
「はい、お弁当」
朝食のトーストを平らげ歯を磨いた後、二段弁当が入った小さなバッグを渡された。
「ありがとう」と返し、スクールバッグと小さなバッグを玄関まで持って行く。
それから踵を返し、リビングの端にある仏壇の前に座った。
蝋燭に火を灯し、線香をあげる。
いつものおりんの音が僕の心を矯める。
お弁当やらネームホルダーやらを鞄に詰めるお母さんを背後に、手を合わせ目を閉じた。
今は亡き家族に、ただ「おはよう」と告げる。
目を開け、火消しを手にし蝋燭の火を消した。
再び玄関に向かい、今度こそバッグを肩に掛ける。
「行ってきます!」
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