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文字通り、俺は紀野の横に「いた」だけだった。
紀野は雄人(大柄な奴)と恵吾(キツネ顔の奴)に襲われそうになったことを先生に伝え、佳のことは話さなかった。
「…言わなくて良かったのか?」
保健室を出て、バッグを取りに空き教室へ向かう途中、尋ねた。
「佳のこと?
うーん、佳は別だからなぁ」
別?何がだ。
文化祭の出し物決めの様子が思い起こされ、思わず足を止める。
さまざまな想いが喉元まで押し寄せ、耐えられず吐き出してしまった。
「いや、お前嫌がってただろ…!
HRのときあいつに何言われたんだよ?」
言ってから「あっ…」と口をつぐむ。
何やってんだ俺、…紀野のこと助けたかったんじゃ無いのか?
これじゃ俺もあいつらと一緒だ。
紀野のこと自分の都合で追い詰めて…。
そのまま歩いていた紀野も足を止め、前を向いたまま俯いた。
「…見てたんだ。
佳に『放課後シよ』って誘われて、『こういうのはもうやめよう』って言ったの。
そしたら『するって言うまで離さない』って言われて…」
「…そんなの、断ればいいじゃん。
つーか、それならさっき先生にそのことも言えば良かっただろ……」
あ〜〜違う!
言いたいのはこう言うことじゃなくて…!
唇を噛み自分への苛立ちをなんとか鎮めようとしていると、紀野が俺の方を振り返った。
…取り返しのつかないことをしてしまったと気づく。
紀野の目には涙が浮かんでいた。
「簡単に言わないで!!
僕は君の愛に応えようとしたんだよ…?
君が3人から距離を取った方が良いって言うから…。
僕嬉しかったの、こんなに僕のこと考えてくれる友達、初めてできたから……!
でもね?
佳もたくさん愛をくれるんだよ?
僕だけにあんな姿を見せてくれるの、佳は僕のことを信頼してくれてるの!」
涙を流しながら話す紀野の姿に、呆気に取られる。
自分の中の紀野のイメージが崩れていく音が聞こえる。
「……違うだろ、紀野、落ち着いて考えろ。
あいつは自分の欲を満たしたいだけだ…!」
紀野は激しく首を振る。
「違う、違う違う違う違う!!!
僕は愛されてるの!だから愛を返してあげただけ!!
でも、今の君は違う…ただ自分の正義を押し付けたいだけでしょ?
間違ってるのは君の方だよ!」
そう言って紀野は空き教室に駆け込んだ。
追って俺も空き教室に入ろうとしたとき、バックを肩に掛けた紀野が出てきた。
「…君にはこんなこと言いたくなかった」
心底悲しそうな顔でそう言われ、胸が苦しくなる。
何も言えなくなった。
それから無理に口角を上げるようにして笑い、「じゃあね、今日はありがとう」とだけ残し、紀野はその場を去った。
空っぽ、だ。
今の俺に相応しい言葉。
「正義を押し付けたいだけ」か。
そうなのかもしれない。
俺もあいつらも、何も違わないんだ。
あのときだ、紀野が佳に犯されているのを見たとき。
あれを見たときから俺の中でそれは決まっていた。
美しい。
触れたい。
守りたい。
独り占めしたい。
みんな喉から手が出るほど紀野が欲しいんだ。
それなのに紀野は"正しい愛"には平等に愛を返す。
それに俺は耐えられなかったんだ。
自分の欲に負けたんだ。
「っ………くそっ…!」
ぐっと握り締めた拳で思いきり壁を叩く。
廊下に残されたバッグを引っ掴んで、夕日に照らされる廊下を、逃げるように歩いた。
写真を撮る気などとうに失せていた。
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