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普段より10分も早く家を出てしまった。
いつもより生徒がまばらなので、簡単に下駄箱から上履きを取り出せる。
紀野に会うのは6日ぶり…正直どんな顔をして会えば良いのか分からない。
いや、気持ちが昂り過ぎて、自分がどんな行動を取るか分からない。
教室の前まで来て「まだ来ていないだろう」と思うのだが、鼓動は速くなる。
後ろのドアから紀野の席を確認する。
やはり、まだ来ていない。
「あれ、宮下今日早くない?」
相変わらず大響は俺の席に跨り背もたれに腹を向ける学校でスマホをいじっていた。
「あぁ、うん…」
明らかにいつもと様子が違う俺を見て、大響はスマホを閉じる。
それを確認して、口を開く。
「あのさ、…今日から紀野戻ってくるから」
すると彼は眉を顰めた後、困ったような表情で首を傾げた。
「…なんでそれわざわざ俺に?」
何故だろう。
尋ねられると答えられない。
「…別にいいや、ちょっとトイレ行ってくる」
大響は目を合わせずにそう言って席を立つ。
突然また1人になり、緊張が押し寄せる。
俺は大響が座っていた椅子に腰掛け、LINEを開いた。
1番上にあるトーク欄に、新規メッセージが届いたことを知らせるランプがついていることを確認し、タップする。
『そっか!
大響くん、本当に宮下くんのことが大好きなんだね!(´∀`)』
思わずため息を吐く。
昨日から何故だか大響との関係性について根掘り葉掘り聞かれ続けている。
『山部さん、こう言っちゃなんだけど、大響のこと好きなら俺なんかと話してないで大響と話した方が良いと思いますよ。
俺大響と仲良いけど何も手伝えませんから。LINE繋がってるんでしょ?』
つい長文で返信してしまった。
どうせただ同じ部活に所属しているだけの人間だ。
どう思われたって構わない。
周りが賑やかになってきた。
時計に目をやる。
そろそろではないだろうか。
念のため紀野の席の方を見遣るが、まだ彼の姿はない。
すると手の中でスマホがバイブし、2番目にあったトーク欄が1番上に来る。
反射的にランプをタップする。
『宮下くん』
鼓動が速くなる。
一抹の違和感を抱きつつ、一度深呼吸をし、スマホを机に置く。
後ろのドアの方を見ると、白髪とあの大きな目が………………ん?
異変を感じ、俺は素早く彼の元へ向かった。
ドアの前で立ち尽くしていた彼の両肩を持って廊下へ連れて行く。
向き合うと、紀野は恥ずかしそうに笑った。
「宮下くん、久しぶりだね」
「いや、そうじゃなくて、、、これどうしたんだよ?!」
紀野の白い肌は所々紫や青っぽくなっていて、頬には大きなガーゼが貼られている。
雄人と揉み合ったときの傷かと思ったが、あの日一緒に保健室に行って、少し切れてしまったところに絆創膏を貼ってもらうぐらいで済んでいたはずだ。
ということは、この傷はあの日別れた後以降ということになる。
だが雄人達は散々大響に説教を受けたようだし、今では俺のことも避けてくるぐらい、もうこちらに危害を加えてくるような様子ではない。
ガーゼの貼られた頬を撫でる。
「誰にやられたの?」
紀野は目を逸らす。
「…虐待?」
そう尋ねると紀野は勢いよく首を横に振った。
「もう終わったの。これは優しさなんだよ」
その言葉を聞いて、以前歩晴先輩と話していたことを思い出す。
こいつはいつも他人の為に自己を犠牲にする奴だ。
「っ…お前、また誰かに体売ってんのか?」
するとまた首を横に振る。
「そういうことじゃ無くて、何と言うか…
許して貰えたんだよ…!
こんな汚い僕が、宮下くんと仲良くすることを…」
紀野は一生懸命暗喩して説明しようと試みる。
ああそういうことかと、妙に納得した。
それとともに、先ほどから感じていた違和感の原因もなんなのか分かった。
「紀野は汚くなんかない。
俺は紀野みたいに美しい人間を見たことがない、紀野は綺麗だよ、芸術作品みたいに」
紀野の目に、透明な煌めく膜ができる。
「大響でしょ?あいつにやられたんだろ、あいつと話してくる」
そう言って教室へ戻ろうとすると、紀野は俺の腕を両手で掴んだ。
「だめ、お願い…。
約束したの、大響くんと。
僕が大響くんに頼んだようなもんなんだよ、だから…大響くんを責めないでほしい、悪いのは僕なの…」
眉を下げ、必死に俺の腕を掴む紀野の頬に、一筋の涙が流れる。
あの日雄人に髪の毛を掴まれ、涙を流していた姿と重なり、はっとする。
「……分かったよ、このことはもう忘れるから」
「ほんと?…良かった…」
紀野は心底安心したような様子で両腕を解く。
「でも、その呼び方はやめてね?何言われたのか知らないけど」
紀野はポカンとした顔で、「でも…」と狼狽え始める。
「良いの、紀野だから良いんだよ」
それを聞くと、紀野は疑うような表情をした後、徐々にいつものような柔和な表情に戻っていき、俺の目を見てこう言った。
「亜海くん」
久しぶりに聞くこの音が、耳にスッと入り込み、心を溶かす。
今俺はどんな顔をしているのだろう。
きっと情けない顔をしてるんだろうな。
恥ずかしくて、顔が見えないように紀野を抱き寄せた。
「おかえり」
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