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靴を履き替えると、紀野は黙ってピッタリと俺の横につく。
紀野は俺が何か言おうとしていることに気づいている。
俺のタイミングを待っていてくれているのだろう。
駐輪場を見ると、俺の自転車の周りには殆どもう自転車は残っていない。
駐輪場の屋根に入り、一応周りに人がいないことを確認して、紀野の前に立ち、振り返って顔を合わせる。
「紀野、身構えないで聞いてほしい」
「うん、分かった」
言われた通り、紀野はいつもと同じように優しい表情で俺を見つめる。
いつもより多く息を吸う。
…あれ、やっぱ緊張してんのかな笑
そう思ったときには既に言葉が口から出ていた。
「紀野が好き」
紀野の吊り上がっていた口角が少し歪む。
目に迷いの色が広がるのを見逃さなかった。
彼はすぐさま目をくしゃっとさせて笑う。
「僕も亜海くんのこと好きだよ?」
紀野は気づいていないフリをしているに違いない。
アドリブで言葉を続ける。
「違くて、俺は紀野のことが恋愛的な意味で」
「分かってる」
俺の言葉に被さるように紀野は言った。
紀野は急に落ち着きを失ったように目線をキョロキョロさせる。
「でも……。
…でも、……やっぱり、やめた方が良いと思う。
だって、亜海くんも知ってるじゃん、僕は僕のことを好きでいてくれる人、全員のことが好きだもん。
亜海くんのこと傷つけたくないし……」
眉をハの字にして紀野は一生懸命話しているが、俺はただ一点が気になって仕方がなかった。
「『やっぱり』…って?」
「…え……?」
「今『やっぱりやめた方が良い』って言ったじゃん。
『やっぱり』って、何が?」
自分でも分からない様子の紀野に、もっと具体的に尋ねる。
「もしかして、俺と付き合うこととか考えてくれてたの?」
もう空は薄暗いが、紀野の頬が徐々に赤くなるのが確かに見えた。
何度も友人と身体を重ねているとは思えないような初々しさを見せる紀野を目の前にし、此方まで恥ずかしくなる。
「…考えたよ……。
だって、亜海くんと会えない間ずっと亜海くんのこと考えてるもん…。
…でも、僕には亜海くんだけを愛せる自信がない」
それを聞くと、居ても立っても居られなくなり、一歩距離を詰めて紀野の両手を掴んだ。
もう何も要らない。
「それで良いよ。
俺はただ、俺の気持ちが承認された状況で紀野と関わりたいの。
もう俺が限界だから」
口をきつく結び、俺を見上げる。
暫くそうしていると、互いの掌が合わさるように握り直して、両手とも指を絡めてきた。
「じゃあ、お試し期間にしようよ」
「…いつまで?」
少しあってからまた紀野が口を開く。
「文化祭」
つまり、あと約1週間ほどだ。
「分かった、良いよ」
1週間もあれば十分だと思った。
仮に紀野が最終的に恋人としての俺を受け入れてくれなくても、1週間あれば紀野に近づける。紀野のことをもっと知れる。
芸術品みたいに綺麗な紀野。
壊れないように、穢さないようにそっと引き寄せて抱き締める。
「幸せにしてあげる」
呟くと、俺の胸に顔を埋めていた紀野が顔を上げて「ん?」と首を傾げる。
「なんでもない」と微笑んで、頭を撫でる。
正しくしてあげるからね。
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