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両片想い1
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大好きな人の利き腕を塞ぐべく、右手首をぎゅっと掴んで、引きずりながら先導した。行き先は逢瀬によく利用する、某ホテルのスイートだった。
握り潰す勢いで掴んでいる手首は、温かみをどんどん失って冷たくなりかけている。それがわかっているというのに、どうしても力を緩めることができなかった。
「坊っちゃんが怒る理由、俺には全然わからないんだけど……」
ぼやくような声が背後からなされたが、そのままスルーさせてもらう。
会社はおろか、外でも俺の名前を呼んでくれない意地悪な恋人を、このあとどう料理しようか。頭の中は、そのことでいっぱいだった。
蒸し暑さを感じる外から、クーラーの効いたホテルに到着。恋人から手を離してフロントでカードキーを受け取り、颯爽とエレベーターに乗り込む。
「おいおい、坊っちゃん」
「黙れよ! 今ここで俺が手を出したら、困るのはアンタだろ。ひん剥かれて俺に喘がされるエロい姿を、堂々と誰かに見せたいのかよ」
「つっ!」
華奢な右手を引っ張って顔を寄せると、憂わしげな表情をありありと浮かべた。
息を飲んだまま口を引き結ぶ、羨ましいくらいの端正な面持ち――このところの仕事の忙しさが、青白さとなって顔色に表れていた。
クォーターで髪と瞳の色素が薄いため、その青白さと相まって、壮絶なくらいに整って見える。疲れきった様子だからこそ優しくしてやりたいのに、余裕のない自分が腹立たしくてならない。
(ふたりきりの空間だからって、エレベーターで唇を奪ったら、歯止めが効かなくなるのが目に見える。だからこそ、絶対にそれはしちゃいけない。この人のためにも――)
なにか言いたげな視線を顔を逸らしてやり過ごし、最上階に向かう番号をぼんやりと見つめた。すると俺に寄り添うなり、頭を肩に乗せる。
(会社を出てからずっと手荒に扱ってきたのに、こんなことをされると、今すぐにでも手を出したくなるじゃないか!)
冷たくなった右手を柔らかく握り直しながら、課長の髪に顔を埋めた。嗅ぎ慣れたシャンプーの香りを、心ゆくまで存分に楽しむ。
「坊ちゃんにこのあと、めちゃくちゃにされるんだろうな。だけど理由がわからないままされるのは、俺としては正直ご免だ……」
深いため息が耳に聞こえたのと同時に、最上階に到着した音がエレベータ内に響いた。スムーズに開いた扉から出て、急ぎ足でスイートに向かう。
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