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盗賊達は長くひとところに留まる事はあまりなく、点々としていた。
住処も、洞窟を利用したり、廃屋を利用したり、テントで過ごしたりと様々だった。
僕達は、男の暮らすテントで傷の手当てを受けていた。
「もう怪我はないな」
こくりと頷いた姉は、僕を一人にはできないと言ってついてきてくれた。
「このくらいの怪我、放っといても治るよ」
腕の擦り傷を見ながら言った僕の言葉に、男は薬瓶を片付けながら
「こんな衛生状態の悪い場所では、小さな怪我が命を左右する事もある。ちょっとした怪我も甘く見ずに消毒する習慣をつけろ」
と忠告すると、木箱の上に布を敷いて果物やパンを並べ始めた。
「これ、僕達の分?」
「ああ、好きなだけ食え。終わったら、お頭に挨拶に行くぞ」
その言葉に、姉がびくりと肩を揺らす。
それでも、いただきまーす。と僕が食べ始めると、姉もおずおずと手を出した。
パンはすごく固かったし、果物もあんまり甘くはなかったけど、僕はお腹がペコペコだったので、いっぱい食べた。
「お兄さん、僕達これからどうなるの?」
藁の上に布を何枚か敷いてあるだけのベッドに腰掛けて、瓶から直接何か飲んでいた男がチラとこちらを見た。
「お頭は、来るもの拒まずだ。おそらく、お前達はここで飼ってもらえるだろうよ。その代わり、自分ができる仕事をするんだ」
「お仕事……? 僕に何ができるかなぁ……」
パンをかじりながら言うと、男が僕達を交互に見て尋ねた。
「お前達、歳はいくつだ」
こういう時、いつもは姉の方が良く返事をするんだけど、今日の姉は、いつもの賢く明るい姉とは大分違っていた。
「僕が七つで、お姉ちゃんは十二だよ」
「……そうか。お前は水を汲んだり、焚き木を集めたり、薪は……割ったことあるか?」
「ない」
「まあ、最初は言われた通りにやってりゃいい。そのうち覚えるさ」
「うん、頑張るね! お姉ちゃんも一緒のお仕事?」
姉と男は、しばらく沈黙する。
食べる事をやめてしまった姉が、顔を覆って泣き出すと、男が重い口を開いた。
「……お前の姉ちゃんは、頭が良いな」
「うん? うん!」
僕は、おろおろと姉の背をさすっていた手を止めて、男の言葉に頷いた。
「……まあ、男所帯のこんな集団だ。そう言う仕事もあるだろうよ」
僕には、いつもほんわかではあるけど、芯はしっかりしている姉が、こんなに悲しむ理由が良くわからなかった。
……両親のことを思い出して泣いていると言うのなら、僕もちらと思い出すだけで泣いてしまいそうだったけれど、それは、まだ今は考えないでおこうと思う。
全ては、もう遅いんだから。
「……痛いのは最初のうちだけだ。すぐ慣れるさ」
男が、どこか遠い目をして言う。
「お姉ちゃんのお仕事……痛いの?」
僕の言葉に返事はなかった。
「お前ら、名前は?」
「ボクはリンデル。お姉ちゃんはエレノーラだよ」
「ふうん。二人とも良い響きの名だな」
僕は思いがけず名前を褒められて、微笑んだ。
「お兄さんの名前は?」
「……俺はカースって呼ばれてる」
「カースさん、かっこいいねっ」
僕の言葉に、男は何かに耐えるように眉を寄せて、口元だけで微笑んだ。
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