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いい匂い
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「リンデル? 大丈夫?」
お姉ちゃんの声がして、僕はそちらを見上げた。
心配そうに覗き込む姉の後ろには、見慣れない景色。
ここは……どこだっけ。
ああ、そっか。カースのテントだ。
視界に入る黒髪にそちらを見ると、僕の隣にはカースが寝ていた。
「あれ、なんで……?」
首を傾げる僕に、お姉ちゃんが答えた。
「私は先に寝てしまったけど、その人、リルデルを連れ帰ってから、もの凄く後悔してたみたいだから……。リンデルが起きるまでずっと起きてたんだと思うわ。
リンデル、体は……まだ痛い……?」
「えっと、ううん、痛くないよ」
慌てて首を振ると、姉はほっと息をついた。
「ごめんなさい、リンデル。あなたを辛い目に遭わせてしまって……」
姉の目にじわりと涙が浮かぶ。
「お、お姉ちゃん泣かないで、僕は大丈夫だからっ」
ガバッと体を起こすと、お尻の方から甘い感覚が響いた。
「……っ」
声を上げないように、息を詰めると、姉がハッとして顔色を曇らせる。
「まだ痛いのね……。無理しないで、私のせいで……」
「違うよお姉ちゃんっ、痛いんじゃなくてーーっっ」
……なんて言えばいいんだろう。
痛いわけじゃないんだけど。
僕は、この感覚をどう言葉にしたらいいのか、まだ知らなかった。
「……」
「……」
「リンデル?」
僕が俯いたまま顔を赤らめていると、お姉ちゃんが心配そうに覗き込んだ。
「だっ、大丈夫っ、とにかく大丈夫だからっ、お姉ちゃんは、もう気にしないで!」
強くそう言い放つと、お姉ちゃんはしばらく何か言いたげに僕を見ていたけれど、
「うん……。わかったわ。ありがとう、リンデル」
と感謝の言葉を伝えて、テントの隅へと戻った。
見れば、そのあたりにお姉ちゃんの上着や鞄が並んでいる。
ひとまずの自分スペースと言ったところなんだろうか。
もぞり。と隣で黒髪の男が寝返りを打つ。
「……耳元でギャーギャーうるせぇな……」
ボソボソと呟く文句は、寝起きだからか、いつもより少し掠れた低い声で、僕はなんだかドキッとしてしまう。
「ご、ごめんなさい……」
「俺ぁもう少し寝るからな。起こすなよ」
カースはそう言い残すと、僕に背を向けてしまった。
カースは目を閉じたままだった。
あーあ、あの眼を見られるかと思ったのに、残念だな……。
もう眠くはなかったけど、座っているとお尻のあたりがどんどんおかしくなってくるので、僕も、もう一度横になる。
「……っ、ん……っ」
なるべく声を漏らさないように、ぐっと息を飲み込んで、しばらく耐えていたら、ふわりといい匂いがした。
なんの匂いだろう。
爽やかな草のような、花のような匂い。
カースが僕が起き上がった拍子にめくれてしまったらしい布団を引き上げる。
あ、またいい匂い。
そっか、この匂いはカースから漂ってるんだ。
僕は、背を向けて寝ている男の、自分よりもずっと広い背中にそうっと顔を寄せてみる。
花のような匂いと、カースの匂いが混ざって、なんだかとっても落ち着く匂いがする。
どうにも我慢できなくなって、すりすりとその背に顔を突っ込む。
なんだろう。すごく安心する……。
僕は、しばらくそのままカースの背にくっついていた。
「……リン、デル?」
戸惑うような、低い声。
おもむろに、カースがぐるりと僕の方を向いた。
「お前……何してんだ」
半眼で僕を見る、緑と青の瞳。
「えへへ」
僕はなんだか嬉しくなって、笑ってしまった。
反対に、カースはちょっと引いているけれど……。
「だって、カースいい匂いがして、安心するんだもん」
「何だよそれ……」
疲れたように返事をして、男がまた目を閉じる。
あ。また目閉じちゃった。
……でもカース、くっついたらダメって言わなかったよね。
嫌だとも言われなかったし……。
……いいのかな? 僕が、くっついても。
僕はしばらく考えてから、そうっと男の胸元に顔を寄せてみる。
カースはほんの少し目を開けて僕を見ると、また閉じた。
何も言われなかったことにホッとしつつ、その胸にぴたりと寄り添って、僕も目を閉じる。
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