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初恋
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一時的に作られた簡易な盗賊の里の中を、俯いたまま、カースは足早に歩いていた。
彼は動揺していた。
自分にしか分からないと思っていた事を、会って間もないあんな小さな子に、容易く見破られてしまったようで。
誰かに分かってもらおうと思った事すら、未だかつて、一度だって無かったというのに。
あんな、小さな……。
里を抜け、林の中で男は足を止めた。
自身の手を見つめる。
その指には、あの少年のふわふわと柔らかな髪の手触りが、まだ鮮やかに残っていた。
麦穂のような黄金色の髪。
それと同じ色で煌めく瞳。
そのどちらもが、いつでもあたたかく輝いていた。
それらが揺れて微笑むと、男には眩し過ぎて、とても直視できなかった。
胸がグッと押さえられるような苦しさに、男は胸元を掻き毟る。
俺の、こんな、左右で全く違う色の目を、あの少年は綺麗だと言った。
親ですら、大丈夫だとか、怖がらなくていいと言うばかりで、結局俺は城の中ではずっと眼帯をつけていた。
それを……、綺麗だと、言った。
うっとりと見つめて……。あれは、心からの言葉だった。
「どうして……」
思わず漏れた自分の声は、驚くほど細く、頼りなかった。
もう一度自身の手を見る。
限りなく、人生を奪われ続けた男にとって、人に触れられる事は、自身を失う事と同義だった。
人に触れられたいなどと思った事はないし、触れたいと思った事も無かった。
なのに、俺は、あの少年にそれを許した。
あまつさえ、触りたいと……、自ら触れたいと願ってしまった。
男は真っ赤に染まった顔を両手で覆い、その場にしゃがみ込む。
頬が、とかじゃない。顔全体が熱い。
耳までが真っ赤になっているのが自分でも分かった。
こんな顔は、最中のあいつにだって見せたことが無い。
どんなに愛を囁かれても、いまだかつてこんな気持ちになる事は無かった。
自分だってこんな……こんな情けない顔をする自分は知らなかった。
「……なんなんだよ、これは……」
男は、生まれて初めての感情を、まだどうする事も出来ずにいた。
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