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僕の気持ち
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リンデル達が盗賊団と行動を共にするようになって、どれほど経っただろうか。
間に一度、隠れ里は引越しをした。
新しい場所も、結局は前と同じく街道からそう遠くない山の中で、川からほど近い場所だった。
リンデルの姉のエレノーラは、すっかり里にも馴染み、里で三人だけの女性の一人として他の二人とそれなりに楽しそうに過ごしている。
お頭の出した接触禁止令が効いているのか、エレノーラが里の中で危機を感じる事はほぼなかった。
一方でリンデルは、同じように令を出されていたにも関わらず、その明るく可愛がられる性格のせいか、何かのフェロモンでも発しているのか、時折里の内で拐かされる事があった。
もしかしたら、お頭とカースのお気に入りだという噂のせいもあったのかも知れない。
その日も、仕事から戻ったカースはリンデルが帰っていない事を知って、探していた。
「くそっ。どこだ、リンデル……」
エレノーラの言うには、昼過ぎに里の男達とワイワイ薪割りをしていたところを見たらしいが、それ以降は分からないらしい。
どこかで、辛い目に遭っているのでは……。
そんな思いが胸を掠める度に、それを考えないよう心の奥に押し込める。
掠めるだけでこんなに手足は震え、息も苦しくなるのに、そんな事を意識してしまったら、男は自分が動けるのかどうか分からなかった。
里の中はくまなく探し、林もざっと見てきた。
残るは、この無数のテントのどれかだ。
ひとつずつ尋ねて回るわけにはいかないが、こんな事をしそうな奴の寝ぐらは既に開けてきた。しかしその全てが空だった。
一人も残っていないという事は、全員一緒にいる可能性だってある。
ギリッと歯を鳴らした瞬間、鈴のような音が聞こえた気がした。
足を止め、耳を澄ます。
くぐもった、微かな声が、けれど途切れる事なく続いていた。
振り返る。そこには倉庫代わりに使われている大きめのテントがあった。
ああ、そうだ。昨日橋を立てるのに木材を大量に出した。ここは今空いているはず……。
頭の隅にそんな事を思いながらも、男は駆け寄ると乱暴にその布をめくり上げた。
中からは、男共の騒ぎ声。
やばいだとか見つかったとか、逃げろとかそんな悲鳴のようなものが上がる。
カースは視線だけで室内を探る。最奥で太めの男に組み敷かれている少年を見つけた。
ぞわり、と、全身の毛が逆立つような気がした。
カースが放った殺気に、男達が凍りつく。
待ってくれ、とか、そうじゃないとか叫ぶ男達の声は、カースの耳には届かない。
六、七、八人の男の顔をひとつずつ確認する。
大丈夫だ。こいつらなら、全員殺しても、団の運営に大した影響はない。
重職でない事を確認し、カースは口元を綻ばせると、腰からダガーを抜き放った。
「待って、カース!!」
リンデルの声に、カースは動きを止める。
そのおかげで、最初の一振りを辛うじて避ける事ができた男が、へたりと尻餅をついた。
致命傷こそ免れたが、服は切り裂かれ、その下に赤い筋を残している。
カースは、リンデルの方を振り返ろうとして、途中で目を背ける。
あんな姿をまた目にしてしまったら、この抜身の刃を振るわずにはいられない。
「皆は悪くないの、僕が…………っ」
珍しく言い淀んだ少年に、カースの胸が騒ついた。
カースが立ち竦んでいる間に、逃げ出そうとしている面々に、
「とにかく皆はお家に戻って」
とリンデルが脱出を促がす。
まだ入り口近くに立つカースを可能な限り避けて、部屋を出ようとする男達をギロリと睨み、カースはリンデルに背を向け叫んだ。
「お前ら!!」
その声に反射的に男を見上げた全員が、紫の光に目を奪われる。
気付いた時には、誰もがその術から目を逸らせなくなっていた。
「この事は全て忘れろ」
コクリと頷く者、了解の言葉を告げる者、様々な反応で、全員がカースの言葉に同意したのを見届けて、カースはリンデルの側まで行くと、その背に少年を隠した。
「もう帰れ」
ふっと正気に戻った男達が辺りを見回そうとするのを、カースが一喝する。
「全員! 自分のテントに戻れ!!」
カースの勢いに驚いた男達があわあわと去ってゆく。
遠のく足音が消えてしまうと、辺りは静まり返った。
「どうして……」
ぽつりと、リンデルに背を向けたまま、男が呟いた。
「……どうして、あいつらは『悪くない』んだ?」
カースは振り返ろうとして、しかし振り返りきれず、続ける。
「教えてくれ、リンデル……」
カースの苦悶の表情がちらと見えて、リンデルは自分の浅はかさを思い知った。
さっきのカースは本気だった。
僕が止めなければ、本当に、友達を皆、殺す気だった……。
訳を問われても、ただの親切心だったなんて、そんな事実では、こんなに思い詰めてしまった彼の心は救われないだろう。
どうすれば……。
どうしたらいいんだろう……。
少年もまた、途方に暮れていた。
いつまでも静かなままの空間で、カースが、ようやく覚悟を決めたのか、じわりとリンデルを見る。
カースの視線を感じて、慌てて少年は側に落ちていた服を拾い上げた。
テント越しの月の光に照らされて、少年の白い肌が、まだほんのりと桃色に色付いているのが分かった。
どうして……と、また男は痛烈に思う。
少年にかけた術はもうとっくに解いてある。
それなのに……それなのに、どうして。
あんなやつらに、犯されて、お前は感じてたってのか……?
ぐらりと音を立て、男の理性が揺らぐ。
それに引きずられるように、男はその場に膝を付いた。
床には数え切れないほどの液体が撒き散らされている。
むせ返るその臭いに、男は目眩を覚える。
一体何度犯られたというのか、あれだけの人数、まさか……全員を相手にしたのだろうか。
視線を上げると、少年が慌てて服を着ようとしている。
その小さな手を掴むと、男は無言で歩き出す。
「え、ちょ、カース!? 僕まだ服……」
ひとまず服を拾い集めたリンデルに、カースは自身の上着を羽織らせるとテントを出た。
リンデルは、そのまま川岸まで引き摺られるように連れて来られ、そこで上着を引っ剥がされる。
男は膝下までのズボンをさらにまくり上げると、リンデルを連れて川に入った。
あの日と同じだ……とリンデルは思ったが、あの頃よりも、川の水はもっと冷たくなっていた。
カースは黙ったまま、リンデルを向き合うように抱えると、その指を後ろへと伸ばす。
少年がびくりと体を強張らせた。
「力、脱いとけよ」
言われて、少年が少しだけほっとする。
男の声は低く冷たい響きだったが、それでも、ずっと黙ったままだった男が話しかけてくれた事が嬉しい。
「うん……」
リンデルの甘えるような声に、カースは喉の奥が焼けるように感じた。
そんな甘い声を、あいつらに聞かせてたのか……?
今なら、喉が裂けるまで、大声で叫びを上げられそうだ。
それほどに、男は先程の状況が許せなかったし、まだ今だって、あいつらを全員切り刻みたい衝動は消えない。
ギリっと歯を鳴らしながらも、男が指を少年の入り口に這わせると、そこはぷっくりと腫れ上がっていた。
こんなに、なるまで、……っどうして……。
指は、抵抗なく中へと滑り込む。もう一本も難なく入った。
少年は時折ぴくりと肩を震わせるだけで、黙ったまま男に身を任せている。
ゆっくり丁寧に、男は少年の中へと注がれたものを外へ掻き出してゆく。
男が激しい怒りを堪えているのは、少年にもよくわかっていた。
だからもっと、自分は乱暴にされるものと思っていたし、その覚悟もしていた。
なのに、男はそれでも少年に優しかった。
リンデルの瞳から、涙が次々に溢れ出て、水面に幾重にも小さな輪を作る。
「ごめ……っ、ごめん、なさい……っ」
声を震わせて嗚咽を上げる少年の頭を、男はもう片方の腕で抱いた。
「僕……カースを、あんな、に……嫌な気持ちに……させ……っ!」
グイと指を奥に押し込まれ、少年が息をのんだ。
「……痛かったか?」
男の声は、まだ冷たい。
「……え、と……」
「あいつらに犯られて、痛かったか?」
「ぅ……。うん……」
リンデルが、しょんぼりと頷く。
「痛かったのに、ただ我慢してたのか?」
「……うん……」
カースが、動きを止めていた指をまたゆるゆると動かし始める。
慰めるように頭を抱いていた腕は腰に回され、ぐいと上へ持ち上げられる。
「奥まで入れるぞ」
男の声から、ほんの少し刺々しさが薄れている。
それを少年が嬉しく思った途端、お腹の奥まで刺さるような刺激に、声を上げた。
「ぅ、あっ」
水面と水平になる程持ち上げられた少年の腰。その向こうで、男の指が根元まで自身の中へと入っているのが、少年の目にも見えた。
ぞくりと、熱いのか冷たいのか分からないようなものが少年の背筋を這う。
「あ……僕の、中に、カースの指が、全部入ってる……」
上擦ったような声で、少年が思わずこぼした呟きに、今度は男の方がびくりと反応する。
「お前……俺の事誘ってんのか?」
「さそ、う……?」
潤んだままの金の瞳が、男の空色の瞳を見上げて尋ねた。
拍子に零れた涙の粒が少年の頬を静かに伝う。
それが酷く許せなくて、男はその涙を吸った。
そして、男はリンデルが泣くところを見たのは、これが初めてだったと気付いた。
ゼフィアに弄ばれて、涙の跡だらけになった顔を洗ってやった事はあったが、泣いているところを見た事なんてなかった。
自分はこの少年の胸で大泣きした事があったにもかかわらず。だ。
こいつはいつだって、なんでもないという風に、前向きに笑っていた。
俺の前では、いつも笑顔だった。
なのにどうして……。
「どうして、他の奴の前でだけ、泣くんだ……」
今夜の少年の頬には、やはり、無数に涙の跡が残っていた。
「カース……」
リンデルの宥めるような声に、男はハッとなって作業に戻る。
リンデルは時折小さく声を上げ、耐えているように見えた。
「これでいい」
男は、そう呟くと少年を腕から下ろし、顔も髪も全て洗って、川から上げた。
されるがままに大人しくしていた少年を、男は自分の上着で拭き上げる。
川岸の草の上にあぐらをかいた男の膝の上に、リンデルはちょこんと座っていた。
「僕、一人で拭けるよ……」
と恥ずかしそうにするリンデルに、男は
「怪我がないか、確認してんだよ」
と答えた。
少年の胸や腹には、あの時のような暴行痕は見当たらない。
月の光に良く照らしながら、じっとリンデルの肌を眺めるカースの視線に、少年はどうしようもなくなる。
「あ、あんまりそんな……見られたら……恥ずかしい、よ……」
そんな馬鹿な。と男は思う。
あんな風に、何人もの男達に見られて、犯されて、それが平気で、なんで俺に見られるのは恥ずかしいって言うんだ。
しかし、視線を上げてみれば、確かに少年は頬を染めていて、男と目が合うと、恥ずかしそうにその目を伏せた。
「どう、して……」
男から、何度も何度も胸中で繰り返された疑問の言葉が漏れる。
カースの声は、震えていた。
「あいつらは良くて、俺はダメなのか……?」
「ち、違うよっ! そういう事じゃなくて、カースだから、恥ずかしいの!!」
男の瞳が絶望を映しているのに気付いて、リンデルが焦りを浮かべる。
「だからっっそうじゃなくてっ! カースは僕の、特別なの!!」
伝わって、どうか。この人を悲しませる気なんて、僕にはカケラも無いって事。
森の色と空の色がまだ濁っていて、彼の困惑を伝えている。
「んーっっ! つまり、僕はカースの事が大好きなんだよ!!」
「……え……?」
「大好きで大好きで、とっても大好きだから、そんなに見られたら、恥ずかしいの!」
「……っ」
男の顔が、月あかりでも分かるほどに、真っ赤に染まった。
湯気が出てきそうなほどの赤面っぷりに、少年は思わず微笑む。
良かった。伝わった。
僕の気持ち………………僕の、気持ち……ーーっ!?
遅れて、少年も赤くなる。
こんなはずじゃなかった。こんなつもりもなかった。
この男にどうしようもなく惹かれていたのは確かだけど、それを男に押し付けようなんて、まったく思っていなかったのに。
姉や両親を想うような、そんな『好き』ではない事は、もう少年にはわかっていた。
けれど、男にとって、僕はどうだろう。
まだ今なら「お姉ちゃんと同じように」と言ってしまえば、無かったことにならないだろうか。
少年がぐるぐると考えている間に、男の腕が少年をそっと抱き締めた。
耳元に男の息がかかって、少年は息を詰める。
「なあ、嫌だったら言ってくれよ」
「んっ……、うん……」
耳元で男に優しく囁かれて、リンデルは思わず声を漏らした。
「キスしていいか」
「い、いいよ……」と答えた少年が、もじもじと恥ずかしそうに補足する。
「でも、僕初めてだから、どうしたらいいか分かんない……」
言われて、ひょいと男が少年を胸から離した。
森の色も、空の色も、驚いたように丸くなってリンデルを見ている。
「した事ないのか……?」
「え、えっと、お口とお口のチューは、した事ない……」
少年は恥ずかしそうに俯いてから、パッと顔を上げると、口を尖らせて言った。
「だって、それって、好きな人とするものでしょっ!?」
丸くしていた目を細めて、ふふっと、カースが笑った。
「ふふ、ふふふっ、ははははははっ」
「……カースが声を上げて笑うのって、はじめて見たかも……」
「はははっ。そりゃそうだろ。俺だって久々に聞いたよ」
「なんでいつもは笑わないの?」
「世の中が面白くねぇからな」
まだ笑顔を残したまま、カースがさらりと答える。
「だが、お前は最高だよ。リンデル」
「……っっ」
初めて見るカースの煌めくような笑顔に、リンデルはまた赤面した。
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