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甘い休日 1-2
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祖父は昔気質の職人で、愛想のかけらもなかったが、休みには近所の爺さん連中と将棋を指すのが好きだった。祖母はそんな祖父の後を三歩下がってついていきながらも、芯はしっかりと持っている人だった。向島の暮らしの中で、蒲生の傷ついた心はゆっくりと癒されていった。
夏の暑さのせいかしらねえと、体調を崩した祖母に癌が見つかったのは、蒲生が向島の家で暮らし始めて三年目の夏だ。祖母が亡くなったとき、蒲生は泣いた。実の両親、弟にまで見放された蒲生のことを、誰よりも心配し、愛情を与えてくれた人だった。もともと蒲生がマッサージに興味を持ったのは、そんな祖母の影響があった。歳のせいか疲れが取れないと漏らす祖母の身体を、少しでも楽にしたいと思ったからだ。
祖母の死後、蒲生は祖父の家を出て、一人暮らしを始めた。国家資格である「あん摩マッサージ指圧師免許」を取得後、しばらく国内のサロンで働いていたが、自分がやりたいこととのズレを感じていた。迷っていた蒲生の背中を押してくれたのは、これまで孫のことなど無関心で、家へ招き入れてくれたのも義務にすぎないのだろうと思っていた祖父だった。蒲生は国際的に認知されているアロマテラピーの資格を取るため、イギリスに渡ることを決意した。
日本に戻って独立したのは二十七歳のとき。口コミから評判を読んで、予約が取れないほどの人気店にのぼりつめた。ちなみに祖父はいまでも健在で、向島の一軒家に一人暮らしをしている。
柏木希の第一印象は最悪だった。最初、蒲生は希のことをゲイフォビアだと思った。嫌なら最初から近づかなければいいのに、わざわざ他人のテリトリーに土足で踏み込むような真似をする暇なやつらがいる。希もその類だと思った。酔ってオカマだ何だと騒ぐ希は正直不快だったし、腹も立った。蒲生はもともと親切なたちではない。そのまま痛い目をみても自業自得だと思うのに、助けの手を差し伸べるように自宅まで連れ帰ってしまったのはなぜだったのだろうーー。
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