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10年後。
*
太陽の光が降り注ぎ、揺らめく海面は常にひかり続ける宝石の様だった。
ハイドルクス王国。
大きな大陸の東にあり、南には海が、北には深い森が広がり、気候に恵まれ、何百年も豊かさを保つ大国だ。
今日も活気のあふれる港に、ひと際にぎやかなキャラック船が見えた。
「クロム!!お前ひとりで楽しみすぎだろぉが」
「海の上だよ?俺のナワバリ〜」
「海の上の前に、船の上だろぉが」
「ヴィルフィーラ……トリなんだからどこでもナワバリでしょ?一番最初に船を沈めた俺に嫉妬?ん〜?」
クロムは翠の瞳を細めて楽しそうに笑った。すらりと伸びた手足をぐっと伸ばしてから濡れた前髪をかき上げた。美しい銀髪が、水滴を含んでキラキラと輝く。
腰巻きと膝丈のサルエルパンツ一枚の彼の褐色の肌は引き締まり、美しく整った肉体は180センチを超えていた。
18歳になったクロムは、笑うと幼さが滲んだが、もう立派な成人男性の大きさだ。
「可愛くねぇの。ついこないだまで『ヴィルみたいに空飛びたい!』って言ってたのによぉ」
「イルカは飛べませーん」
「……成長って憎いなぁ、オイ」
互いに軽口を言い合っていたが、クロムはヴィルフィーラと呼んだ男の背中を叩くと船の手すりにひょいと飛び乗った。
「待てよ、クロム!」
「俺、泳いでくる」
「今、海賊退治が終わったところだろぉが。せっかく陸に戻ったんだぞ」
「ボスに呼ばれたら、適当にヨロシク!」
クロムは大きく口を開けて楽しそうな笑顔をヴィルフィーラに向けた。
トンッ!と手すりを蹴り飛び、海に着水する時には大きな白いイルカの姿に変わっていた。
「あっ……!ったく!……明日の朝早くにはファーデル国に向かうんだぞ!!大丈夫かよッぶふぅ!!」
ヴィルフィーラが海に向かって声をかけると、イルカになったクロムは水を飛ばして答えた。
ケラケラと笑う音が響き、すぐにクロムの姿は波に消えた。
「腹立つ!!運んでやんねぇぞ!」
ヴィルフィーラは羽やリボンを編み込んだ長い髪を振りたくり、水気を飛ばしながら中指を立てた。
彼はクロムと同じ獣人だった。とは言っても、彼はトリ。同じ時期に訓練所に入り、今では同じ船で働く親友だった。
ハイドルクス王国ではトリが獣人の半数を占めていた。彼らは大きく、力がある。空を飛んで荷を運ぶことが出来るのは相当な強みだ。外敵に遭うことも、悪路を進む必要もない。
トリの獣人たちはこの国の繁栄に欠かせない歯車のひとつを担っていた。
ヴィルフィーラのように戦地に赴く者もいる。素早い空からの攻撃は無敵と言えた。
クロムも、ハイドルクス王国に来賓として招かれていたが、獣人の身体能力を活かさないのは勿体ないと学んだ。人間や獣人と共に勉学と戦闘訓練を重ね、今では船の警備や海賊討伐など、海での活動に無くてはならない存在になっていた。
「クロムのヤツ……故郷に帰れるのに、嬉しくねぇのか」
ヴィルフィーラは何も見えなくなった水面に呟いた。
そんな彼の背中に、船の航海士からの声が届いた。
「ヴィル!わたしたちが荷物を下ろす。クロムと共に、海に生きている人間がいたら救出してくれ!悪賊だから、油断するなよ」
「クロムの野郎、いねぇですよ」
「ヴィル……任せた」
「アイツ……覚えてろ」
ヴィルフィーラは大きなため息を吐き出し、両手を広げた。一度目を閉じると、背中から羽毛が一瞬で腕へ広がり、赤と黄色の羽に彩られた立派な翼が広がる。同時に全身が巨大なトリへ変わっていた。
獣人専用のタンクトップの布は伸び切り、腰巻きがただの布切れのように見える。体長は2メートルを超えそうで、翼開長が軽く6メートルはありそうだ。猛禽類特有の鋭い眼と大きく鋭い嘴が存在感を主張した。鋭い爪が甲板をカツカツと叩く。
ヴィルフィーラは小さく鳴くと羽ばたいて宙へ舞った。
巨体に似合わぬ軽やかさに、船員たちも空を見上げた。口笛を鳴らす者や手を振って見送る者もいる。
「ヴィルーー!!」
仲間の声に答えるように一度上空で旋回してから、ヴィルフィーラは海に散らばった敵船のごみくず上空へ飛んだ。
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