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「ふぁー、食った!まじでファーデルの料理超美味い!」
「だろー?俺もついつい、ハイドルクスにいても似たような料理作ったりしちゃうよ」
「マジで?!俺も食べさせて」
「はぁ?やだよ」
「オイ!そこは『いいよ』だろ」
楽しい食事を済ませて、程よく酔っ払ったふたりは用意された部屋へと廊下を歩いていた。
クロムが窓を見ると、月が高く登るほどの時間だが、月が雲の隙間から輝き、ゆっくりと降り出した雪がきらめいて明るく感じさせていた。
いつも白い世界に覆われている、生まれ育った景色を懐かしいと思う。それほどに自分はこの国を離れていたのだと感じさせられていた。
それでも、家族と言える王たちは歳を取っても変わらずにクロムに接し、まるで小さな子供にするように優しく甘やかす。
本当に、この国を出た頃のままで、居心地が良かった。ただの流れ者の獣人の母子に、本当の家族のような居場所を許してくれた。
必死に、帰ることに抵抗していた自分が馬鹿らしいとさえ思えてしまい、クロムは雪を見つめた。
クラウスも、変わらずに優しく、クロムへ笑顔を向ける。今思えば、それは特別ではなく、弟のような存在を可愛がるものだったのかもしれないと思い知らされていた。
「…………」
急に足を止めたクロムにつられてヴィルフィーラも窓の空へ視線を向けた。
「本当に雪ばっかなんだな。……王様たち、本当に優しいし、静かな食事かと思ったけど話も楽しいし、酒も美味いし、ついつい食い過ぎたぁ」
ヴィルフィーラは胃の辺りを撫でながら満足そうに笑った。すぐに打ち解けられたのは彼自身の明るさもあったからだろう。
クロムは満足気なヴィルフィーラの様子に笑って、歩みを再開した。
「俺、案外普通に家族らしく出来たかも。きっと、クラウス兄さんの事、祝えそう」
ヴィルフィーラはクロムの背中を見つめて、小さなため息を吐き出した。
確かに、家族の中にいればクラウスを『兄』として位置づけられていた。けれど、再開した時もそうだったが、ふたりきりの空気になると『兄』ではなく『クラウス』として見ている。それをクロムが分かっていない事に呆れた。
「あ、ここだ。ヴィルは隣の部屋な。一応温まってるとは思うけど、調整が必要なら呼んでくれれば行くからさ」
ふたりに用意された部屋は隣で、使いやすい個室の来客用の寝室だった。
ドアを開けると、持ってきた少ない私物もテーブルの上に置かれている。
ヴィルフィーラは明日の洋服がハンガーに掛けられているのを見て眉尻を下げた。
「こんなに良くしてもらって、マジでファーデルに住みたくなるなぁ……」
「嬉しい言葉だけど、俺たちは多分どっちもファーデルには向かないよ。ヴィルたちトリも寒いのは苦手だろ?俺も、海がないと辛いもん」
クロムが少し寂し気に眉根を寄せながら、口元に笑みを作った。
「俺たち獣人は『ひとになれる獣』?『獣になれるひと』?……生まれた時は獣型だろ?つまり前者なんだって、学校で習っただろ」
「本能、ってのがあるって?たしかにな。自分の獣型について勉強させられたなぁ……」
「そう考えたら人間はすごいな。どんな環境にも適応してく」
「それな!でも、俺たちだって半分くらいは人間っぽいんだから、どこでだって住めるだろ。誰か可愛い子と付き合えたら移住しようかな、マジで」
「……俺が失恋するってのに、頭ハッピー野郎……」
「クロム。失恋て悪い事じゃねぇだろ?もっと幸せな恋の始まりかも。いつもの前向きはどうした?アニキの事、祝えるって言っただろ?」
「祝えるよ!おやすみ!」
クロムは痛いところを突かれて、イラッとしたように言葉を投げつけて部屋に入った。
バタン!と閉まった扉に、ヴィルフィーラは『やれやれ』と呆れたように眉尻を下げて、自分も部屋へ入った。
クロムの思いがどうであれ、兄のクラウスは一国の王子。ちゃんとクロムのこじれた片思いを綺麗にしてくれるだろう。
会ってみて、懐の深い優しい人間だと感じたヴィルフィーラは、そう期待してベッドに寝転んだ。
*
クロムは部屋の窓から穏やかに降り続ける雪をぼんやりと見つめていた。
正直、ヴィルフィーラに『祝える』と言い切ったものの、好きという気持ちは確かにあった。
ただ、思ったよりも上手く家族らしくいられそうだとは思った。嘘が苦手だと自覚しているが、喋らなければいい。にこっと笑って、乗り切ればいい。
ヴィルフィーラは新しい恋を始められると言ったが、クロムにとってはまだ難しそうだった。
少し冷たい空気のある窓際で、クロムからため息ばかりが何度もこぼれた。
月の傾きが気になり出した頃、そろそら寝ないと……とベッドへ座った時、控えめなノックが聞こえた。
パッとそちらに顔を向け、クロムは嬉しそうに顔を緩めた。耳の良いクロムには扉の向こうの人物が何者か分かっていた。
「クラウス……!」
クロムは弾む声を抑えながら扉を開けた。
「起こしたかな?」
「まだ寝てない。なかなか眠れなくて」
「友達は眠れたかな?」
「たくさん飲んでたしね」
「……少し話せる?」
「うん!俺も話したい」
クラウスの微笑みに、クロムは大きく頷いて部屋へ招き入れた。
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