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『内緒だよ』。クラウスはそう言ってもう一度唇に触れた。
クロムは心に決めたように頷き、部屋を出ていく後ろ姿を見送った。
それはもう、15分は前だったが、クロムは扉を見つめたまま立ち尽くしていた。
時折、暖炉でパチっと可燃材が弾ける音が静かな部屋に存在感を示していた。
「はぁーー……驚いたな」
クロムは止めていた息を深く吐き出した。
震える手を見つめ、触れていたクラウスの温もりを掴むようにギュッと握る。
「…………」
好きでいいんだ。お互い好きなんだ。
それだけでクロムは泳ぎ出したくなるほど胸が昂ぶった。叫びそうになる気持ちを抑え込み、ベッドへダイブすると枕に顔を埋めた。
顔が緩むのを止められない。優しく名前を呼ばれて、触れられた場所から熱が広がる。
微笑みを超えた笑顔がすぐに思い浮かび、クロムは胸がきゅっと痛んだ。
じわりと下腹部に興奮が現れ、微かに顔が赤くなる。
何度も夢に見た。どんな風に成長しているのかと思い、彼の肌に触れ、お互いの熱を感じる瞬間はどんなだろうか。どこか子供のようにいたずらで、だが大人びた優しさを滲ませて笑う彼が、乱れる姿を本能的に想像する。クロムはクラウスを抱く妄想に益々顔を赤くした。
冷たい枕の温度が心地良い。
クロムは興奮を落ち着けるために毛布を退かし、ベッドへ大の字に仰向けになった。ひんやりとしたシーツが心地良く、目を閉じる。
頑張ってたから報われた?クロムの自問に答えはないが、現実は思った以上に幸せと言えそうだ。
「クラウス……」
クロムは大切な人の名前を静かに囁き、ゆっくりとまどろみはじめた。
*
翌朝、まだ眠り足りないクロムは紅茶を前に頬杖をついてヴィルフィーラを眺めていた。
昨夜の事は夢だった?と、少し自分を疑う。それでも、感じた唇の感触と、時間、静かな部屋での彼の声は本物だったと思える。
ぼけっとそんな思考にはまっていたクロムを、鈴のような可愛らしい笑い声が現実に引き戻した。
朝食を用意してくれていたアシュリーという召使いの女の子と、ヴィルフィーラはとても仲良くなっていた。
茶色のポニーテールを揺らし、頬をほんのりと桃色に染め、目を輝かせてヴィルフィーラの話に控えめに笑う様子は可愛らしい。
ヴィルフィーラも、目元が緩みっぱなしで、クロムは胸がふわりとした。
「ふふっ……ねぇ、付き合ったらいいんじゃない?」
クロムは顔を上げて、ふたりの手を握った。
『えっ!』と同じように目を大きくしたふたりの手をそっと重ね、クロムはパチっとウインクしてみせた。
「アシュリー。ヴィルは兄弟が多いから、めちゃくちゃ面倒見がいいよ。説教臭いところあるけど、ほんっと〜に良いヤツだから。強いし、腹筋なんてバッキバキだし、空を飛べるんだよ?すごくない?」
「お、オイ!アシュリーちゃんが困ってるだろ……!」
クロムが突然自分を褒め下ろす言葉を並べ始め、ヴィルフィーラは赤くなった。
一方、アシュリーはクロムの後押しに照れながらも重ねられたヴィルフィーラの手をそっと握った。
「あんまり長くファーデルにいられないんだから、少しでも長く一緒にいて、お互いを知った方がいいんじゃない?」
クロムはニヤリと笑って、席を立った。
「今日は昨夜からの雪がちらほら続いてるけど、外に出られないほどじゃないし城下の方に行ってみたら?明日は晴れるけど式があるから出歩けないかもじゃん?俺が執事長にお願いしておくからさ!俺はお墓に行ってくるよ」
どうする?というように顔を見合わせるふたりに微笑み、クロムはこっそりとヴィルフィーラの上着のポケットに紙幣を押し込み、ひらひらと手を振った。
「ごゆっくり〜!」
クロムは邪魔にならないように食堂から出た。
クラウスと同じ気持ちだという事を知る事ができた喜びが、気持ちを軽くする。
親友のヴィルフィーラにもそんな相手が出来たらいいな……と、ビンタで振られたというエピソードを思い返して眉尻を下げた。
「……会いたいなぁ……」
絨毯に彩られた廊下を歩きながら、今日はみんなが忙しいと聞いた事を思い出す。
王たちは各国からの祝辞などの対応。第一王子のクラウスはもちろん、第二王子のダインも対応に追われていた。
執事たちは王の手伝いをしながら召使いたちの式の準備にも加勢しており、城は賑やかだ。
ヴィルフィーラとアシュリーを外に出して欲しいと執事長に伝えるついでに、クロムも何か手伝おうと決めて、広間へ向かった。
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