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雪馬は迫る獣に驚き、鼻息を荒げて前足を上げた。
クロムは落ち着かせるように声をかけると、クマの動きを止めるためにナイフを投げた。
ナイフは首に命中したが、怒り狂うままに突っ込んで来た。
「ッ、マジか?!」
クロムは雪馬の背に立ち、蹴り飛んだ。同時に雪馬に走るように命じる。
「行け!」
雪馬はそのままクマから逃げるように走り出した。ギリギリでクマをかわし、6メートルほど宙に飛んだクロムは空中で獣化した。
上着もズボンもビリビリの布切れに変わり、赤い襟巻きをしたイルカが現れた。
だが、大きさはシャチほどもある。
クロムは身体をしならせ、思い切り尾をクマの頭に叩き付けた。
想像していなかったであろうイルカの出現に、クマも時が止まったように目を見開いた。
バチン!!と破裂したような音とボクッと骨が砕ける音が混じって鳴った。
ドスン!とイルカは雪上に落下し、クロムは慌てて人型に戻った。全身に触れる雪の冷たさに震えながら、破けて絡まっているだけの衣類を手繰り寄せ、外套に包まる。
「っ雪、ヤバい……!!」
吹き飛んだブーツを引きずり、足を押し込む。
クマは雪に埋まるように倒れて動かなくなっている。
「……くっそ、さむっ……!」
ピィ!ピィ!と短く指笛を吹くと、すぐに雪馬はやって来た。
「お前めちゃイイ子だな。よしよし……早く乗せて!マジ死ぬ!」
震えながら、クロムは雪馬によじ登った。
だから海のないところでは役に立たない!と自分に怒りを抱きつつ、すぐに馬を走らせた。
クマの獣人の足止めは成功した。
みんなこ無事を確認したい。
クロムはそれだけを考え、雪馬を走らせた。
*
クロムが城に戻ると、扉の前にはクラウスが待っていた。
雪馬を見ると、雪も気にせずに駆けてきた。
「クロム!!大丈夫?!」
「クラウス!俺は大丈夫。服が欲しい!」
青い顔で震えるクロムを見て、洋服がボロ布のようになっている状態に驚いた。
クラウスは執事に洋服を揃えるように指示して、支えるように雪馬から降ろして温かい部屋に連れて行った。
部屋にはヴィルフィーラも暖炉に手を向けて温めている。
「クロム!よかった。元気そうだな」
「マジでクマ2匹もいたから、思わず獣化してこんなになった……」
クロムが赤い外套を広げて見せると、もう裸同然だった。
ヴィルフィーラは同じ獣人として気持ちが分かるため、けらけらと笑ったが、クラウスは慌てて大きな毛布を背中から掛けた。
「風邪ひくから!」
眉をつり上げたクラウスに、クロムは『ありがとう』と笑った。
毛布を纏いながらクラウスに抱き着き、クロムは温もりを感じて目を閉じた。
「俺、役に立てた?」
「ああ。もちろん。すごいよ」
「……お姫様も無事だよね?」
「ああ。クロムの事をずっと気にしている」
「マジ?……お姫様、可愛かった」
ふふっと笑って、クロムは甘えるようにクラウスの首へ顔を埋めた。ごしごしと顔を擦り付け、温もりを吸い込む。
クロムの背中を撫でるクラウスの様子を見ていたヴィルフィーラは固まった。
会った時から仲が良く、クロムのスキンシップも当然のように見ていたが、ふたりから滲む雰囲気は甘い。明らかに昨日よりクロムは顔をくっつけて自分の匂いを付けるように抱いていた。
獣人にはよくある行動だ。愛する者が自分のモノだと示す行為。
「クロム……」
ヴィルフィーラは思わず名前を呼んだ。ちゃんと気持ちを整理して、クラウスの結婚を祝うはずだろ?と険しい眼差しを向けた。
丁度の時、執事が新しい洋服一式を持っては来た。
「失礼いたします。クロム様のお召し物をご用意して参りました」
「あー!服!ありがとう」
クロムは裸を恥ずかしげもなく晒しながら、衣類を身につけて暖炉の前に座る。
子供のようなその様子に執事もクラウスも幼い頃と変わらない無邪気さに小さく笑った。
「クロム。ヴィルフィーラ殿。力を貸していただけて本当に助った」
「そんな風に褒めてもらえて……なんだか照れます」
「だよね。ハイドルクスじゃあ普通だもんな」
「それな!」
「ふふっ。ふたりがいなかったら、こんなに安全でスムーズな対応が出来なかったよ。父上もダインも感動してた。後でたくさん褒められるよ。照れてばかりいられないんじゃないかな」
クラウスはふたりの肩を叩くと、ダターラに残っていた兵士たちが盗賊の残党を捕らえたと話した。
クマの獣人がエリーゼ姫を追って行ったおかげで国の方は兵士たちが仕事を果たし、守られた。
朝を待ってファーデル国の城に一時避難した人々も帰す予定だが、結婚式があるため、お披露目しようという流れになり、城は再び慌ただしい空気が流れ始めていた。
「夕食も忙しくなりそうだから、こちらの部屋に用意させる。ふたりはゆっくり休んでくれ」
「至れり尽くせりってコレだな」
「グラタン美味いんだよなぁ……また食べたいなぁ。ありがとうございます」
クロムとヴィルフィーラはクラウスの言葉に大きく頷いて、ぬくぬくと暖炉の前でくつろいだ。
運ばれて来た温かいミルクとクッキーに顔を綻ばせた。
ヴィルフィーラは湯気の揺れるミルクを見つめた。一面雪の景色を見続けて、ミルクはこんなにも温かい色をしていたんだな……と思いながら、聞くべきことを口にした。
「なぁ、クロム。……クラウス様と何かあった?」
ヴィルフィーラは隣で身体をビクッと反応させたクロムを横目に、『なにがあった?』と低く、声を抑えて聞いた。
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