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月が傾き始めた頃。クロムはそっとクラウスの部屋の扉へ耳を当てた。
ファーデルは温かい部屋を維持するために壁も扉も厚い。だが、イルカのクロムは耳が良かった。
部屋の中から、エリーゼの啜り泣く声が聞こえる。
今夜、夫婦として夜を過ごす事は聞いていた。クラウスは自分で性器を限界まで高め、達する間際にエリーゼに挿入し、中に放つ。
愛も何もあったものではないが、ふたりの覚悟は本物だった。出来ればこれで上手くいって欲しい……とクラウスはエリーゼの心身を心から心配していた。
クロムはエリーゼの泣く声に、意を決して扉をノックした。
「俺!」
涙を流すエリーゼと、彼女を抱き締め、背中を撫でていたクラウスは一緒に驚いて顔を上げた。
「開いてるわ」
泣いているエリーゼを気づかい、返事をしないクラウスに代わって彼女が答えた。
「エリーゼ。大丈夫?具合悪いんだろ?ダターラにいる専属のお医者さんに診てもらったら?」
クロムは扉を少し開けて、声だけで伝えた。
「もし必要でしたら、俺が連れて行きますよ」
クロムの声に続いて聞こえたのはヴィルフィーラの声だった。
エリーゼは涙に濡れた頬を擦り、クラウスを見ると、そっと頷いた。
クロムの思いやりと、ヴィルフィーラの優しさにエリーゼから再び涙が溢れた。
「助かるよ。頼める?」
クラウスはベッドに座ってエリーゼを支えて立ち上がった。こっそりと城を抜け出すために、自分のクローゼットからコートとパンツを出してエリーゼに着るように差し出した。
「クロム……彼に話したのかしら」
「クロムは話さないよ。でも……ヴィルフィーラはクロムをよく分かってる。なにか察するかも」
「……ありがとう。情けないわね……いざとなると、震えちゃうんだもの」
コートを羽織り、襟巻きを押し込んでエリーゼは自分の手をぎゅっと握った。
その手をクラウスは優しく包む。
ふたりはそっと額を合わせた。
「エリーゼが一番負担が大きい。……俺は役に立てないけれど、差し出された手が大丈夫かは自分たちで判断しよう」
「ええ。クロムの友達を信じるわ」
男物のコートに身を包み、エリーゼは扉を開けた。
「エリーゼ……」
クロムはエリーゼの気持ちを察して彼女を抱き締めた。きっと、自分ではなくユーリにそうして欲しいと分かっていた。
クロムの腕の中でエリーゼは小さく頷き、『ありがとう……』と呟いた。
背中を支えるクラウスがヴィルフィーラに頷いて見せた。
「随分働かせてしまって、申し訳ない」
「いいんです。ファーデルが好きですし、役に立てる事は光栄です」
「エリーゼ、ヴィルに乗れそう?」
「二度目よ。心配いらないわ」
ヴィルフィーラはすでに温かい物に身を包んでいて、準備万端だった。
エリーゼは涙を拭い、深く頭を下げる。
「お姫様?!やめてやめて!」
慌てふためくヴィルフィーラに、みんなが小さく笑う。
バルコニーへ出るとヴィルフィーラは両手を広げて獣化した。
「みんなありがとう。朝には帰るわ」
ウインクを残してヴィルフィーラは羽ばたいた。ふわっと冷えた風が舞い上がり、クロムはクラウスの手を握った。
微かに雪が舞い始めた寒空を見上げて、ふたりは赤い大鳥が見えなくなるまで見送った。
*
20分ほど跳び続けると、目視できる距離にダターラが見えた。
エリーゼは温かいヴィルフィーラの背中に身を寄せて、飛び始めて初めて声をかけた。
「ありがとう。城の北がわたしの部屋だから、そこでゆっくり温まってね。ねえ……クロムから聞いたの?」
獣型のときは話すことが出来ないヴィルフィーラは、クツクツと喉を鳴らした。
答えは分からなかったが、エリーゼはもう一度『ありがとう』と囁き、近づく故郷の街並みと、愛する人を思い浮かべて目を輝かせた。
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