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クロムは結婚式の後、今まで故郷に帰らなかった分を取り返すように月に一度、3日ほどファーデル国へ帰るようになっていた。
ハイドルクス国王も、クロムが乗る船の仲間も、遠慮せずにゆっくり過ごすことに好意的で、ファーデル国の土産を毎回楽しみにしていた。
ヴィルフィーラもクロムと共にファーデルへ向かうのが楽しみになり、アシュリーとの仲を深め、いずれどちらかが移住する事を考えているほどだった。
ーーーパシャッ!と水が跳ねる音が響く。
温室のプールサイドにすわり、足先をぬるい水に入れてクラウスはうたた寝をしていた。
手元の本が落ちそうになり、大きなイルカのクチバシがそっと支えた。
そのまま、クラウスの胸元に口付けるように触れた。微かに感じる心臓の音が伝わり、目を細めた。
ダインという頼れる弟とともにダターラとの道の整備を考えつつ、政務を任される彼は疲れていそうだ。
クロムは眠るクラウスを見つめた。
「……ぅ、クロム……?」
眠たげに開いた瞳は、大きなイルカの頭を映した。
そっとクチバシにキスをして、微笑む。
「ごめん。寝てた」
クラウスが口元を隠してあくびをこぼすと、くすくすと笑う声が聞こえた。
「疲れてるなら寝なさいよ。せっかくのお休みなのに」
「エリーゼ」
「クロムって獣化するとそんなに大きいの?!雪馬二頭分くらい……すごい!乗りたいなぁ」
「身体は大丈夫?」
「つわりも落ち着いてきて、ユーリが安定期に入ったって言ってた」
自身の腹部撫でるエリーゼの笑顔に、クラウスは微笑んだ。
エリーゼは薄い肌着以外を脱ぎ捨て、ゆっくりとプールへ入った。
クロムはご機嫌そうに鳴き声を上げながら、白い腹を見せてヒレを動かし、そこに乗るように促した。
泳ぐ事がない雪国育ちのエリーゼは、深いプールに怖がりながらもクロムに抱き着いた。
「ふふっ!可愛い!大きな魚ちゃん」
「イルカは魚じゃないそうだよ」
「えぇっ!?そうなんだ……本でしか見たことのない生き物に触れられるなんて、嬉しいわ」
クロムとエリーゼが水遊びをする様子を微笑ましく眺めながら、クラウスは腕を上げて背筋を伸ばした。
「仲良くて妬けるなあ」
クラウスの呟きに、クロムは尾びれで水をかけた。
バシャアッ!!と音がするほどの水は思ったよりも大量で、ずぶ濡れだ。
さすがにまずいと思ったのか、クロムはエリーゼを抱きながら人型に戻った。
「あははっ!クラウス!ごめん!」
「許さん」
クラウスは上着とズボンを脱ぎ、プールへ入った。
泳ぐことをしらない雪国育ちのクラウスを見て、クロムは慌てた。だが、クラウスはゆっくりと泳ぎ始めた。
「クラウス!?」
「やだ。思ったより上達してるじゃない」
「一緒に泳ぎたいから」
クラウスは誇らしげに目を細めた。
クロムは嬉しそうに笑って、近くへ泳いできたクラウスの頬に口付けた。
「やっぱクラウスはカッコイイ!」
室内のプールにクロムの声と3人の楽しそうな声が、キラキラ輝く水面のように明るく響いた。
*
「はあ〜楽しかった」
「かなり疲れた……ずっと泳いでて凄いな。俺は気を抜いたら沈みそうだった」
髪を乾かしてクラウスの部屋に戻り、クロムは広いベッドへ寝転んだ。
窓の外は相変わらず一面真っ白な雪景色。だが、寒さを感じさせない室内にいると、ふわふわの綿菓子がゆっくりと降っているようにさえ見えた。
部屋の隅の机には資料や書類が乱雑に並んでいる。プールサイドでもうたた寝をしている姿を見たクロムは襟巻きをクローゼットにしまう背中に笑みを向けた。
「今度、仕事〜とか言って遊びに来なよ。ハイドルクスに。プールよりも広い海で、俺が背中に乗せてあげたい」
ベッドでだらけながら、クロムは温かい海で一緒に泳ぐ場面を想像して顔を綻ばせた。
クラウスは緩んだ顔のクロムに近づき、そっと額に口付けた。
「楽しそうだ」
クロムと過ごそうと、仕事や勉強を片付けるのに必死で、大事な時間にくたくたになってしまっている自分を情けなく思いながら、クラウスは寝転ぶクロムの上に乗った。
身体をくっつけ、鼓動を感じて目を閉じる。大の男が、全体重を預けたら重いかな……と頭の端で思ったが、それより先にクラウスは瞼の重みに負けた。
優しく髪を撫でる指。耳元に擦り付けられる鼻先。優しく名前を呼ぶ声。
全てが浸透していくようにクラウスは感じた。
「寝ちゃった……?」
これはこれで幸せだ。とクロムはころんとクラウスを横に転がし、抱き寄せた。
寝顔を見つめる。
ただ、それだけで、何かが爆発しそうなほどに幸せ。クロムは緩んだ顔で薄桃色の唇にキスをした。
「クラウス。俺との幸せを望んでくれてありがとう」
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