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一夜目
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いつから魔法が使えるようになっただろう。
手首から苺が出てくる魔法が。
痛みなどなく、精神をすり減ってまで手を動かすことに疲れて。ぼたぼたとまっさらなシーツが穢れていくのは最高に気持ちがいい。
いつからだろう。
「今宵は月が綺麗ですよ?旦那様。」
あまりにも可愛らしい、甘い声が窓の外から聞こえた。
でも、これは夢だ。可笑しいだろう、ここは5階だ。…まさか、
「…こんな真夜中に窓から訪問ですか。
良いご身分ですね。
淫魔さん。」
「思った通り!
貴方は冷淡且つ意地悪ですね?」
彼の影が露わになる。ツァボライトの宝石が埋め込まれたピアスが揺れ、サスペンダーの柔らかそうな生地…
「私に何か恵んでもらおうと?
残念ながら私の家は貧相でして。その汚らわしい翼でお帰りになって下さい。」
「貴方をずっと狙っていたんです、気高い童貞の匂いがする。」
「私の精気を貰いに来たと。」
「えぇ。それじゃあ早速頂戴していいですか?」
「名も知らない淫魔に自分の精気を恵む筋合いはありません。」
「それは失礼しましたっ」
私の膝上に浮かび、軽々と一回転をするその姿はとても珍妙な光景だった。そのまま翼を大きく広げると黒に藍色の混じった羽が外の街灯で透け、その時ばかりは美しいと思えてしまった。
かなりホコリ臭かったが…
「ゾノ、ご覧の通り列記としたインキュバスです。」
「この汚い尻尾は本物?」
「尾が無きゃバランス取れないですから。」
先が尖っているようで毛が生えている細長い尻尾。ゆらゆら動くと思えば、絡まってしまいそうだ。
「ま、汚いのは無視してください。」
「ゾノさんはどうしてこんなに臭うんですか。
ダニの死骸まとわりついてますよ。」
「なんてこと言うんですか!?…その前に、
貴方の名前を。」
「私の名前…名乗る程の者では。」
「秘密にしたいんですか?」
「出来れば貴方みたいなめんどくさい人にはバレなくないですけど。…優、優しいと書いて。」
「へぇ!名前にしては攻撃的ですね、「厳」にしたらどうです?」
「うるさい、お前にはムチが必要か?」
「加減してくれなさそうな所がいいですね…」
「随分とこじらせてるな、気持ち悪い」
「そんなこと言わずに、僕の身体は名器と言われています。保証はします。」
「何らかの流行病に掛かったら大変。」
「いやぁ、昨日一日中縛られてたからかな、埃だらけ…」
「…気になっていたのだけれど、何歳?」
「1…おっと、こんなことをいったら僕が捕まりかねませんね、淫魔年齢では…大体180ですよ。」
「大体って」
「いやいや、もう何年も何年も生き過ぎて、
自分の年齢でさえどうでもいい。」
「…」
「では次に。何故、縛られていた?」
「それは…また明日のお楽しみにしましょう。夜が明けてしまう。」
「あぁ、朝まで話しましょう」
私は淫魔の髪を鷲掴む。多少加減をしたが、透き通った藍の瞳が赤らんだ。痛みに、弱いのだろうか。
「でも…」
嫌がりもせず、こちらを見つめてくる。嫌気がさしたので手を離し、ぐしゃぐしゃの焦げ茶を撫で下ろす。
「朝日が上れば貴方は弱って死にますからね。」
「僕を殺す気ですか!?」
「早い段階で処分しておかなければ。」
「そんなんだから童貞なんですよ?」
「帰れ」
「えぇ、帰らせていただきます。…明日は楽しみにしておいて下さいね、」
淫魔は撫でていた私の手の甲に口付けをする。
思わず顔が熱くなるのを感じた。
後から怒りが込み上げて、「貴様」の3文字を言う前には、彼は窓から飛び降りていた。
「おい、風呂入りなさいよ!!!」
夜が明けかけの赤い空に一羽の翼はより一層美しく見え、瞬きすると妖精のように跡形もなく消え去る。
ああ、忘れていた。
これは「夢」。
撫でた柔らかな髪も、赤らめた瞳も、全て。
あの鎖がある現実に帰らないと。
(…でも、不思議だなぁ。私よりも精気のある若い青年はこの世界にいくらでもいるのに…)
そんな気まぐれな奴にほんの少しの興味を抱きながら目を覚ます私も、大概のようだ。
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