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エラい人を好きになったんとちゃうか
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どーも、こんにちは、打木呂将という者です。うちぎりょしょうと読みます。関西出身、関東育ち、体重65kg、身長178cm、現在、28歳。しがない飲料メーカの営業職。趣味は釣りと料理と、それともうひとつあるんやけど、それが社会的には、あまりあけっぴろげには言えないやつなんだよなぁ。
ゲイ、なんやと思います、自分。小さい頃から、ちょっと自覚はあったけど。今は一人で、スポーツ誌とかからかっこいいと思う男(ひと)の切り抜きでスクラップ作ってみたり、プロレスやボクシングの録画でハアハアしてみたり、とか。
普通に男友達はいるけれど、どうも女の話題になると全く共感できなん。俺はガチムチにしか興味が持てない。鍛え上げられた筋肉にしか欲情しない。もちろん、友達のひょろっとした体にも興味はない。性格がいいやつだなとは思うが、そ・・・愛読書は田亀源五郎ですー。
臆病な性格なせいやろか。恋人がいたことは、ない。妄想だけで終わってしまう。そんな自分を変えたくて、俺は、28の冬、新宿2丁目へと入ってみた。
それが、その人と出会うきっかけやった。
初めて行ってみた2丁目のムードについていけへんかった俺は、早々に街を出てしまった。
あれほどまでに期待をしていたのに、全く殻を破れへん自分が、そこにはいた。
苦しくて苦しくて、ラブホ街へとうっかり出てしまい、幸せそうなアベックを見てさらに辛くなり、自棄酒(ヤケざけ)を飲んでた。
寒空の下、屋台で飲む酒は、旨い。その旨さが、俺の惨めな心を余計踏みにじった。
俺は、2丁目の人々のようには、なれへん。
だからといって、ノンケにも、なれそうにないわ。
俺は、きっとずっと、この先も一人なんやろう。
そんなこと、考えてもしょうもないのにうっかりと考えすぎているうちに深夜になってしまい、終電を逃した頃にその人を見つけたんやった。
第一印象は、ごっつう好み、やった。
がっしりした体躯に、黒い短い髪の毛で。鋭く切れ上がった目が印象的やった。ベルセルクいう漫画の主人公、ガッツに少し似てた。でも、ガッツより年はいってそうやった。30代くらいかなぁ思た。
そんな人が、ゴミ捨て場で額から血を流しながらぶっ倒れてはった。ゴミ捨て場にぶっ倒れとるいう異常なたたずまいにも関わらず、俺は一目惚れしてしまった。やばい、かっこいい。そう思った。
俺は、ほっといたら凍死してそうなこの人をそのままにはしておけず、一緒にその辺のラブホに入ってしまった。
好みの顔じゃなければ、交番にでも預けれた。そしてそうできたのなら、この人と深く関わらなければ、こんなに辛い思いはせずに済んだんやろう思う。
ラブホに入る時、フロントにぎょっとされた。そりゃそうやろな、野郎二人やし。一人は血まみれの大男やし。でも俺は、ビジネスホテルまでの距離をその人を背負っていける自信がなく、やっとのことで一番近いホテルまで引きずって来れた。
…まあ、酒のせいで気が大きくなってたのは、俺も認める。もしかしたら、なんて、甘い期待を抱いてたのも。
その人がゲイなんじゃないかという感じが、なんとなくしてた。その上でホテルまでご一緒しましょうか、と聞いて、うん、といわれたら・・・当然期待してしまうやろ。
「大丈夫ですか」そう聞いたら、その人は言った。
「大丈夫だ・・・」
意識が朦朧としてるようやった。さすがに、期待が吹っ飛んで心配に変わった。ほんまに大丈夫なんやろか。サービスの水のボトルを開けて、渡そうとする。さかい、ぐったりして、指一本動かさへんによって、水を飲ませたった。
ボトルを傾けて口に寄せると、彼は飲んでくれはった。そんな彼の上下する喉がエロくて、その下まで視線を滑らせていきよく見たら、額だけじゃなく、あちこちから出血しはっていて、いよいよ下心どころではなくなった。
「うわぁ・・・」
「・・・傷、か?」
にやっと笑った彼は、気になるのか?という感じで訊いてきはった。
「そうです。何したらこうなるんですかね。」
昔大阪にいた頃、阪神タイガースが優勝すると道頓堀に飛び込む人を見てきた。怪我する人も、その中にはいたけど、こんな怪我、見たことがない。
「殴られたんだよ。」と彼はこともなさげに言う。
「・・・殴られた。・・・」
この界隈では、流血沙汰の喧嘩もあるんやろか。都会怖いな、と俺は思った。
そして、次に彼から出た言葉に、耳を疑った。
「殴られ屋だよ。ストレス発散に殴られて金もらうの。」
「・・・は?」
都会は広いなー、と、俺は改めて思った。親が転勤族でいろんな地域を巡ったしいろんな人に会ったけど、彼は今までちょっと会ったことないタイプやった。そう思てたら、腕を引かれた。
「・・・ヤりてぇんだろ?」
「なっ、」
「そういう目つきだったじゃん」
いいぜ、と、彼は言う。
「そ、そうだけど。そうだけど・・・っ」
思わず、本音が出てしまった。同時に、改めて彼が生身の人間やという事実に気付いて、俺は萎縮してしまった。第一、怪我してる相手に何かしらなんて、できるかあほ。
彼がせっかくつかんでくれた腕を振りほどいて、俺は体育座りになってしまった。
「せっかくヨくなってるから・・・このままヤってもいいんだけどな。」
と彼は独りごちた。
「痛くないんですか・・・」
と俺が恐る恐る聞けば、彼は、
「痛いのが、気持ちいいんだ。」と言いはった。
さすがに引いた。目の前の血まみれの男は、痛いのが気持ちよくて、行きずりの奴と寝るのをなんとも思っていないらしかった。
住んどる世界が違う。何で俺はこんな初対面の人間とラブホにいるんやろ。そう思た。
自分の軽率な行動を、深ーーーく後悔した。
でも、後悔先に立たず。
「アンタが助けてくれなきゃ、
あのまま寒さを楽しんでもよかったんだけどな」
と、彼は続けた。
変態や・・・・変態。死ぬような目に遭っとるくせに。
あたまおかしいんと違うか。
俺が黙っていると、彼はフフ、と軽く笑って言葉を継いだ。
「・・・冗談だ。喧嘩してああなってただけだし、助かったよ。
たぶんゲイなんだろうな、と思ったから、からかっただけだ。」
「・・・はあ。」そうですか。
そのことを聞いて、安心してまう自分がいた。
そんなやり取りの後、各個シャワーを浴びて、二人で映画を見た。
古いアメリカ映画で、ベトナム戦争を描いたものやった。
兵士を演じる役者が出てくるたび、二人でこの顔は好きやとか、この顔は好きやないとか、そんなことを話した。
話しているうち、俺は愚痴モードに入ってしまった。初対面なのに、なぜか彼に、心を許してしまった。彼が黙っーて聞いてくれはったせいなのか、同じゲイやから話せたのか、おそらくどちらもやろと思う。
俺の憂鬱の原因はいろいろとある。憎たらしい上司(仕事の無理難題を押し付けたり、プライベートにやたら突っ込んできたり、ミスに対して過剰に叱責したり、とにかく俺たち後輩を苦しめている)、不況、加齢、加齢とともに迫ってくる結婚とか、そういう問題。
それを解決させない、同僚にも親友にも言えない性的な嗜好。かといって、2丁目的ノリに馴染めない自分の存在。
もう、手一杯の憂鬱を、俺なりに面白く話すと、彼は時折苦笑めいた笑い方をしはったり、ちょっと驚いたような表情や頷きを返しながら、ジーッと聞いてくれた。
それを見ながら俺は、ああ、この人はなんにでも、自分にとって全然メリットのないことでも熱心にひとのためにやってしまうのかなぁと思た。
年上の癖に、浮世離れした、危なっかしい人。それでいて、どことなく確かな存在感がある。わからないのに、惹かれていく。
確実に、恋に落ちてしまった音がした。それが性欲なんか、それ以上とかそれ以外とかのものなんかとか、どうでもええと思った。
この人が、好きや。もっと知りたい。
どうしてもこの人と一晩話をしただけの関係になりたなくて、俺は連絡先を渡してしまった。
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