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悶々としてまうの、ガキとちゃうか
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彼と別れて暫くは、彼からの連絡ばかり待っていた。
夜、独りで酒を飲みながらテレビを観ていても、少しそわそわしてまう。この前なんか、夢に彼が出てきた。こんなに馬鹿みたいに恋をしたこと、なかった。
何回も何回も、スマホの画面に映る彼の名前を、目で撫でるみたいに見る。
田所 潤。
本名なんかも知らん。何しとる人なんかも知らん。
でも、もう一度話したいと思た。
もう一度話したい。あの夜、俺は自分のことばかり話してしまった。彼に呆れられたかも知らん。さかい、今度は、彼から話が聞きたい。挽回できるならどんなに良いかわからんと、俺は思う。
ずーっと恋煩いしてたら、ついに同僚に心配された。
休憩室で煙草を吸ってたら、同僚の柳井が顔を覗き込んできた。
「佐々木、最近死相が出てるぞ。」
「そうかな。」
「なのに、やたら元気だよな。業績も調子良いし。」
柳井は勘がええ。俺は、奴と気が合った。出身も経歴も性嗜好もぜんぜん違う。さかい、一番気を許せた。でも同時に、ノンケに見えるように一番気を張ってもいた。何となく、他の人間にするように柳井にも標準語で話す。
「これだろ。」と小指を立てて見せてくる柳井。
まあそんなとこだよ、と俺は、平静を装いながらも曖昧に答えた。
「どんな娘なの?」
とにじり寄ってくる柳井の顔は、ちょっと怖いな思た。
「優しくて、ちょっと変わった人。」
「髪の色とかは?」
どんな体型?どのくらい進んでる?とか、根掘り葉掘り訊いてくる柳井。避けると却って疑われるんやないかみたいな気がして、俺は洗いざらい答える。
「黒髪ショートで、ムッチリ系だよ」
「全然、電話番号交換しただけ。」
「飲み屋で知り合ったの。」
・・・嘘やない。・・・
でも、肝心の部分は敢えて伏せてある。
「・・・お前、相当ほれ込んでるだろ。」
柳井の勘は、本当に鋭い。
「そうだよ。俺は今、自分でもどうなっちゃってるのかわからないくらい、その人のことを考えている。」
なあ、これって病気?と、俺は聞いた。
「恋愛なんて、大体病的だろ。」
と、柳井は恋愛慣れしている分、クールだった。
「たぶん打木が今まで恋をしなかったから、免疫がないだけだと思う。」
「・・・どうしよう・・・」
悩める俺に、柳井は適切極まるアドバイスをくれた。
「取りあえず、メシに誘え。アタックあるのみだ。そして、当たって砕けろ。」
「何で砕ける前提・・・」
煙草を吸い終えて外回りの準備をして、二人で寒い空に白い息を吐く。
「今日、メシどこ行きたい?」
と、運転席に座った俺は訊く。
「打木の行きたいとこでいいよ。」
と、柳井は答えた。
「・・・・」
柳井が何か呟いた気がしたが、エンジン音にかき消されて、よう聞こえんかった。
その夜も彼のことを考えてた。
今頃、田所さんは何をしてはるんやろか。
・・・電話してみようか。
でも、出てもらえへんかったら・・・?
俺は、きっと傷付いてしまう。立ち直れそうにないな。
妄想にとどめていたほうが、きっと、面倒やない。でも・・・
ハイ、ここで俺は、二度目の間違いを犯しました、神様。
電話を、掛けてしまった。
これが、俺が普通の人生を歩む階段を踏み外してしまった第二の要因やった。
スマホを持つ手が震えた。
電話の取次ぎ音が鳴って。
出てくれ、でも、出たらなんて話せばええの?
考えていると心臓がバクバクしてきて、その瞬間は永遠にも感じた。
実際の間隔はほぼ40秒足りんくらいやったと思う。田所さんは、すぐ出てきた。
「何・・・」
くぐもった田所さんの声。
「あ、あのっ・・」
また路上で寝てないかな、って心配で。
それを言おうとすると、ひどくおかしな感じがした。
俺は、・・・・宮本さんの保護者かなんかか?
距離感が、どうも掴めへん。
今田所さんと俺は、全くの他人や。他人から、どうやったら特別な存在になれんのやろか。
考えれば考えるほどに、思考がこんがらがり、舌がもつれた。
「・・・」
「・・・」
俺にとっては、居心地の悪すぎる沈黙やった。
「こ、の、前はっ、ありがとうございました・・・」
あかん。もう、頭ン中真っ白や。
わけがわからなくなり、俺はとりあえずそれだけ喋った。
そうすると、電話向こうで、宮本さんが笑った気配がした。
「あんた、真面目だよなぁ。」
けなされてるんかほめられてるんか、その両方なんか。
ああ、俺はなんぼダメなんやろ、心臓が痛くなってきた。
やけど、電話を一秒でも長く続けていたいと、そう思う。
幸せなんか、不幸なんか。
多分、そのどちらでもあるみたいな気がする。
「あ、の、・・・」
取りあえず、アタックあるのみ、や。柳井の言葉を思い出す。
「今度、一緒にメシ食いませんか・・・?」
言ってしまってから、アホ、俺、と思た。
相手にとって、俺なんかとメシ食うメリットがどこにあんねん。
クソ真面目と根暗が特徴の、量産型サラリーマンやぞ、俺なんか。
大阪弁で話すと、おもろい人間やと勝手に期待される。そして、なんもおもろないって勝手に失望される。さかい、大阪弁を封印した、筋金入りの根暗やぞ、俺は。
断られて、ほな終わりや。この恋は、終了。
もう少し気の利いたこととか、言えへんのかよ。
グッバイ、俺の純情。
しかし、意外と宮本さんは食いついてきた。
「いいよ」
と言われて、俺は、始め何が起きたのかわからへんかった、その後、じんわりと嬉しなってきた。
「ほ、ほんとですか?」
多分、今の会社に入社して初めて取れた新規契約より、嬉しかった思う。
「ああ。面白そうだから。」
「あ・・・・ありがとうございます。」
面白そう、言うことは、性的魅力はないってことやろうな。
そう思いつつも、俺は嬉しかった。
そこに理屈なんかあらへん。好きやから。好きやから、一緒にいたい。
ただそれだけで嬉しさは出来ていて、その感情の混じり気のなさに、我ながら驚いてしまった。
その、ある意味での俺の純粋さは、青春をちゃんと過ごさなかった代償かもしれへんかった。
ほんまに、俺は通学と勉強以外をしなかった学生生活を送ってきた。
さかい、いろんな感情が未発達なまま大人になったんと違うかな、と俺は思う。
それでも、彼に、宮本さんに、ぶつかっていきたかった。
何かにぶつかっていきたいと思ったことは久々で、俺は、これが最初で最後やないかな、と思た。
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