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銀座の寿司
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ルカと付き合い始めて、ちょうど5年になる。今、俺たちは26歳だから、21の年だった、付き合いだしたのは。
その間、色々なことがあった。
一回始まった連載は、俺が23の年に無くなった。
俺は、それからも短編や読みきりは書かせてもらったけれど、なかなか連載がもらえず鬱屈としていた。
俺は、そうなってやっと初めて本気になった。
会社を辞めて、月に一本は作品を書いて、出版社へ持ち込んだ。
そうしているうちに、編集さんに何かの時に呼ばれることが多くなった。
有名な作家さんの講演会の手伝いをしたり、作家の交流会に顔を出したりして、いろいろな話を聞いた。
そのうちに、自分の書き方のスタイルができてきて、仲間内では評価されるようになっていった。
そうして今、アルバイトをしながら、何とか2本の連載を持っている。
一年前に出版社が俺のための枠を作ってくれたのが1本。
それからおそらく短い付き合いになるだろうが、ピンチヒッターの枠が1本。
どちらも読者の反応はまあまあといったところだった。
ルカは、俺のすることに理解を示してくれた。
会社を辞めたとき、ちょっと広いアパートに移って、もう同棲を始めていた。
編集さんに持込をしていた頃、ルカに当たってしまったこともあった。そういう時でも、ルカは俺を慰めてくれた。
俺のプライドだけが高い生意気さも、そのせいで編集さんにボロクソに言われるしんどさも、ルカは理解してくれていた。
その上で、愛してくれるのだった。
ただ、俺が作品作りをサボると、ルカは俺を叱ってくれた。
ハルは絶対売れるから、と言うのが、俺を叱咤する時のルカの口癖だった。
23で会社を辞めた俺が25で連載を再び持てるまでの2年間、その態度はずっと変わらなかった。
俺はそのおかげで毎月持ち込みにいけたといっていい。ルカがいなければ、作家になるなんて決してできなかっただろう。
今日は、いつかの約束を果たそうと思って、ルカとデートをする。
「ルカ、起きれるか?」
「・・・んん・・、ハルさん、・・」
ルカの温かい手が、俺を探して伸びてくる。
俺はその手を取って、キスをした。
「もう昼だぞ、起きて。」
ルカが起き上がり、伸びをする。
「昨日さ、結構仕込みに時間がかかちゃって。大変だった~。そのせいかな、夢の中でもお菓子作ってた。」
「マジか、大変だったな。」
話しながら、ハグをする。こうすると目が覚めると、これが俺たちの朝起きての習慣になっていた。
「だよねぇ。」
ルカはのんびりとそういって、顔を洗いに行った。
「今日は銀座へ行く。」
ルカの好きな調理器具を見たり、本屋へ行ったりしてから、夜は予約を取ってある寿司屋へ行く予定だ。
この前のサイン会のギャラをはたいて、ホテルも取った。
「銀座か。久しぶり。」
ルカが答える。
そこで渡すはずの結婚指輪を見る。
作りに行った時、どちらのリングもどう考えても男のサイズなので、変な顔をされた。
これからもそんなことはたくさんあると思う。
まだ、ルカのご両親にも挨拶していないし、俺の両親にも、ルカのことはルームメイトとしか話していない。
俺の仕事だって、毎年新人はたくさん出てくるから、不安や障害はたくさんある。でも、そういうことで浮き足立つ俺を支えてくれるのが、ルカという男なのだ。
ルカの書いた小説を思い出す。
怪物になってしまった男は、きっといい理解者を見つけた。
二人はずっと幸せに暮らしましたとさ、という事になるのかどうかは、まだわからないけれど。
俺は、指輪を眺めながらルカと過ごした日々のことを思い出していた。
優しい初夏の日差しの中で。六月の雨の中で二人きりの狭い部屋で過ごしたこと。
夏の前に初めて、抱き合って。それからも、色々なことがあって。
これから来ることも、二人でいい思い出にしていこう。
了
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