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泡沫
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凪side
目の前に広がるのは久しぶりに見るグレー以外の色達。
冷たくない床。
暖かい風が吹いている。
「…な、何の冗談…だよ、っ」
僕を縛り付けて、監禁して、そんな人が今更外に出してくれる?
そんなの有り得ない。
なのに何で、こんな…
「お腹すいた?ご飯食べようか」
僕の質問には答えずにそのままキッチンへと歩いていく。
僕は着いていくべきか分からなくて、その場にへたり込む。
ここ、があの地下の上…
ふと振り返ると、出てきた扉には引きづられた跡があって横には大きな本棚。
あぁ、きっとこれがあるからアイツは僕を地下から出したんだと思った。
どんなに足掻いたって、たとえこの場所へ辿り着いたって、本棚の下に気付かなければ僕は見つけられない。僕に助けなんて来ない。
そう、示すために。
「凪くんは何が好き?今から作るから少し遅くなるけど」
答えるべきか迷って、地下での時間を思い出す。
腕も縛られて食事をまともにとれやしない。
なら…
「なんでも…あ、でも油っこいのは、苦手…」
誘拐犯であろうと、食べ物をくれるなら欲しい。
栄養を取らないと。いつか助けが来た時にもう息絶えてましたなんて嫌だ。
「分かったよ。凪くんはソファにでも座って待ってて…あっ!テレビ見ててもいいよ」
_おかしい。不自然なくらいに今までの対応と違いすぎる。
どうしてこんな優しくするんだ?
意味がわからない。
改めて部屋を見渡すとすぐ廊下を出たら玄関があることが分かる。
もし…もし一瞬でも隙を付けたら出れるかもしれない。
いやでも鍵かかってるよな…
それなら窓はどうだ?
…ダメだ、これ普通に飛び降りたら死ぬやつ。
何か、何か出れる方法は…!?
「あっそうだ、曜日感覚ないだろうけど今日は金曜日なんだ。明日明後日は仕事もないからずっと一緒だよ」
「きんよ、う?」
僕が捕まってまだ1週間も経ってない…
もう随分と長く地下に居た気がする。
「そう、金曜。今日から2日間一緒のベッドで寝ようね」
「一緒のベッド…って…どういう…」
「どうってそのままの意味だよ?俺のベッドで一緒に過ごすの。凪くんにとって久しぶりのベッドだから昨日一生懸命掃除したんだ、喜んでくれると嬉しいな」
違う、そういうことを言ってるんじゃない、ないんだよ
なんでこんな優しくするの?僕に頑丈な扉を見せつけて牽制したいなら今すぐにでも地下に返せばいいのに。
なんでそんな笑顔でご飯作ってるの?
なんでベッドで寝るなんて…
もう分からなくて、一点を見つめてボーッとしてたら出来たよってまた優しい声がして、そっちを向くと綺麗な炒飯がいい匂いと一緒に運ばれてきた。
こんなの、いつぶり…?
自然とお腹がぐぅーと笛を鳴らす。
それを聞いた先生はクスッと笑って、ほら座って一緒に食べようって僕に問いかける。
その目が、何を考えてるのか分からない。
不自然に笑っていて、有無を許さない。
逆らうわけにもいかず対面に座った。
「なかなかいい出来だと思わない?いただきます…うん、美味しい。ほら凪くんも」
唾液が目の前の食事を欲しているのが分かった。
ゆっくりと用意されたスプーンを手に取って1口掬い、口に運ぶ。
香ばしい醤油の味と優しい卵の風味、パラパラなご飯と肉々しいベーコン。
ここへ連れてこられて初めて人間らしい食事をして、目の前の男に感謝しそうになった。
誘拐したのもコイツなのに。
「どう?美味しい?」
「…うん、美味しい…」
ほぼ同時に食べ終わって、おもむろに席を立った先生はドアを開けてすぐ横の部屋へ入っていった。
暫くボーッとその部屋の扉を眺めていた。
…あれ?もしかして、今、逃げられるチャンスなんじゃ…?
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