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✳︎
「彩貴。彩貴、彩貴〜」
「なんだ、朝からうるさい」
目覚めて朝食を済ませて着替えたところに、悠牙がバンッと不作法に扉を開け、飛び込んできた。
「彩貴っ」
「きさまは…執務に行ったのではなかったか」
仕事をしろ、国王、と、嫌味っぽく視線を向けてやれば、何故か満面の笑みが返ってきた。
「弥景がしてる。だから、街へ行こう」
「は…?」
いや、だから…。
「あ〜、視察な。視察」
「きさま…」
今とってつけたよな?明らかに。
「まぁいいだろ?ほら」
「うぷっ…」
って、なんだこの前が見えないローブは。
頭からすっぽりと、フード付きの外套を被せられ、私はその下からチラリと悠牙を窺った。
「俺も着替えるから待ってろな」
「はっ…」
言うが早いか、元々それほど固い格好をしていたわけではない悠牙が、さらに形式ばらない粗雑な服装になっていく。
「国王陛下の訪問だろう?そんな適当な格好…」
「いいの、いいの。よし出来た」
じゃぁ行くぞ、と腕を取られて、部屋を連れ出されていく。
「はっ?おい!供は?護衛は!」
まさか単身、着の身着のまま出掛けていくつもりか。
「だぁいじょうぶ。俺、強いから」
それに何も起きないよ、と豪胆に笑っているこれが、本当に国王陛下なのか。
「お忍びにしたって…」
せめて隠れて供の者を追従させるものだろう。
「ふふ、彩貴、俺から離れるなよ?」
さぁ行くぞ、と、忍びにしてはあまり堂々と、正面の門から悠牙は街に下りて行った。
ワイワイ、ガヤガヤ。
街の中心部は、私が思っていたよりも活気付いていた。
「お兄さん、寄っといで。今日は新鮮な葉物が入ったよ」
「まんじゅうが美味いよ〜。出来立てだよ〜」
ざわつく商店の合間を、客呼びの声が飛び交っている。
「っ…」
私は、ローブの中で小さく身を縮めながら、悠牙の腕にしがみつき、その様子をチラチラと窺っていた。
「ぷくくっ、何か食べたいものはあるか?」
あれなんかどうだ?と、悠牙が路面店を指差して首を傾げる。
パンに似た、だけどそれにしては小振りでまん丸な、茶色い物体が並んでいる。
「揚げ菓子だ。知らないか?」
「揚げ菓子…」
「小麦粉を丸めて少しだけ甘みをつけて揚げたもの」
「初めて見る」
「そうか」
じゃぁそれを1つ、と、悠牙が揚げ菓子とやらを買い求める。
「あ…代」
「俺の奢り」
気にするな、と笑いかけ、差し出された揚げ菓子を私は素直に受け取った。
「食べてみろ」
「あぁ…」
くんくんと匂いをかぎ、パクリとそれに食いついてみる。
「っ…」
サクッとした表面に、中はふわふわで、ほんのりと甘い優しい味がした。
「どうだ?美味いか?」
「あぁ。これが民の菓子か」
菓子といえば、ケーキやタルト、プリンなどしか知らない。
「じゃぁあれは?」
平たい丸い板のようなものを示されて、私は再び首を傾げた。
「せんべいだ」
これも食えと、悠牙がまたも謎の物体を買ってくる。
「せんべい…」
この固いものも食べ物なのか?
持たされたそれをジロジロと眺めてから、悠牙を窺ったら、ワクワクした顔で見つめ返された。
「っ…」
なんだこれは。石か?
ガツッと噛み付いたせんべいとやらに、歯が折れるかと思った。
「本当に食べ物なのだろうな?」
「あ〜?当たり前だろ」
ほら、と言いながら、せんべいを持つ私の手を取った悠牙が、横からバリッと食べ攫っていく。
「うま」
「………っん」
半信半疑ながら、悠牙が本当に美味しそうに食べるから、私は再び悠牙が残した続きからそれを食べ始めた。
「………うん」
まぁ、固さを乗り越えれば、しょっぱい感じがちょうどいい、美味しいものだと思わなくもない。
「ぷくくっ、間接キス」
「………?」
悠牙は何故か、隣でとてもご機嫌だった。
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