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「はぁっ、はぁっ…悠牙様。彩貴様」
ふと、ようやく見つけた、という弥景の声がして、私はぼんやりとそちらの方へ顔を向けた。
「弥景」
「はぁっ。まったくあなたがたは、何をなさっているのです」
この騒ぎは何事ですか?と弥景が眉を顰めながら、みなの輪の向こうから現れた。
「王宮のどこにも姿が見当たらないかと思えば、供も連れずにあなたは!」
「はっ…」
やっぱりきさまは、執務を放り出して逃げてきていたんじゃないか。
思わず涙も引っ込んで、ジロリと悠牙を見上げてしまった。
「あ〜?まぁ、それはほら、視察?な〜んて」
ヘラリと笑った悠牙が、両手を降参の形に挙げて弥景を見ている。
「まったく!とにかく王宮に帰りますよ!後は我々にお任せください。ほら、あなた方は立って」
何人か、部下らしい者を連れて来たのか。
私たちを囲むようにしていた民たちの収拾をつけてくれるらしい。
「あぁ、ありがとう。…彩貴」
バサリとローブのフードが被し直され、泣き顔がみんなから隠される。
「行こう」
引かれた手の力に従えば、ひょいっと立たされた身体が抱き寄せられた。
「っ…」
「大丈夫。大丈夫だ」
ふわりと肩を抱かれ、歩くよう促される。
ふらふらと、その歩みに従えば、不意に悠牙が足を止めた。
「あぁ、だけど1つだけ、みんなに言っておく。俺は、こいつを認めてくれとは頼めない。だけど俺はこいつを選んだんだ。俺が彩貴を選んだ。それは理解(わか)って欲しい」
バサリとローブを翻し、ザッと開けた人々の輪の間を、悠牙に連れられて歩いて行く。
シーンと静まり返った人たちの輪は、黙って私たちを見送ってくれた。
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