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4.唯一Ⅱ
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「それで、なんだったの? ほら、さっさと言いなよ。さすがの僕でも何も言ってくれなきゃ君の言いたいことはわかんないんだからね」
扉が閉まると同時に、雲嵐は腕を組んでこちらを睨んでくる。皮肉めいた口調も、もう聞けないのだと思うと胸が破れそうな程に痛い。
「ほら、早く」
急かしてくる雲嵐に、憂炎は無理矢理作った笑顔を向けて、震える声でそれを告げた。
「雲嵐。この一月、ありがとう。お陰で、兄様の病は治った」
「えー。急に改まってどうしたの? いいよ。あれは僕が好きでやったんだし」
「ああ。本当に感謝している。そしてお前は今日、この役割を一つ終えたんだ。だから……このかりそめの契約を、解消しよう」
「え……? なに、その冗談。さすがにそれは、面白くないよ?」
「……冗談じゃない。この一か月お前を見てきて、ずっと考えていた」
疑問と悲しみの表情を浮かべる雲嵐に、憂炎は笑顔が崩れそうになるのをぐっとこらえる。崩してしまえば、決心が鈍ってしまいそうだった。
「何で!? どうして!? 僕、何かした!?」
雲嵐は憂炎に詰め寄ると、襟首を掴みんで「どうして」と言いながら身体を揺らす。その縋るような瞳に、思わず勘違いしてしまいそうだった。
「お前は、何もしていない。全部俺が悪いんだ」
「どういうこと!? わかんないよ! 唯一にしてくれるって、君、そう言ったじゃない!!」
「俺にとっての唯一はお前だ。それが変わる事はない」
「じゃあ、何で解消しようなんて言うの!? それでいいじゃん!」
「それじゃ駄目なんだ!!」
その叫び声に、雲嵐はびくりと身体を震わせる。憂炎の服を掴んでいた手も、ぱっとその反動で離れて行った。
「駄目なんだ。それだけじゃ、足りない……」
「なんなの……。言ってくれなきゃわかんないよ……」
「お前は、知らなくていい」
泣き出しそうな雲嵐の頭を、憂炎はくしゃりと撫でる。鴻帝を捨てて自分だけのものになって欲しいなど、到底言える筈もなかった。
「雲嵐。これで、お前は自由だ」
「……!」
目元が熱くなるのを感じながら、憂炎は左手の薬指にはまった指輪に手をかける。
それを外すだけでいい。そうすれば、雲嵐との契約は白紙に戻る。
意を決した憂炎は、指輪を掴んでゆっくりとそれを指から引き剥がそうとした。
その時だった。
「だめ!!」
「うわっ!」
どん、と雲嵐が憂炎の胸を思い切り押した。均衡を崩した憂炎の身体は、そのまま後ろへと倒れ込む。
「ばか! ばか! 憂炎なんて大嫌いだ!! その指輪、絶対外しちゃ駄目だからね!!」
瞳から大粒の涙をこぼしながら、雲嵐はそう言い放つ。そして「もう知らない!」と叫んで部屋の外へ走って行った。ばん、とものすごい音とともに扉が閉められる。
「なんで、あんなに必死なんだ……」
床に倒れ込んだまま左手をかざす。その薬指には、外される事のなかった指輪が輝いていた。
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