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2年前からリスタート!
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「あれ? あれ……?」
「ぼく、見つかった?」
「やっぱりない。お財布、忘れちゃった……」
子どもの前にある会計台の上には、駄菓子が1つ乗っている。
色素の薄いふわふわの髪でしょげた表情を浮かべているそいつは、どこか未来に似ていた。
俺はレジの前まで行くと、ペットボトルを置く。
「これも一緒に、まとめて会計して」
「かしこまりました! 良かったね」
「うん! ありがとう、お兄ちゃん」
「……ああ」
店のテープが貼られた駄菓子を、小学生に渡す。
「お兄ちゃん、本当にありがとう」
店の前にある駐車スペースに出ると、子どもは礼儀正しく改めてお礼を言った。
「いいよ。気にすんな」
罪滅ぼしみたいなもんだから。未来に似ている子どもに優しくしたくなったのは、きっとそんなところ。お礼なんて言われる筋合いはない。
でも子どもは、未来が嬉しいときに浮かべるみたいな可愛い笑みを、顔全体に広げて言った。
「お礼がしたいな。何か願いごとはなぁい? ママからね、親切にしてもらったらお礼をしなさいって言われてるんだ!」
一生懸命な子どもが微笑ましくて、ふっと笑いながら俺は答える。
「何もねぇよ」
「ほんとに? 何でもいいんだよ」
「礼なんていいって」
「んー、でも僕はお兄ちゃんの願いごとを叶えたい!」
俺の願いごと、ねぇ……。確かに、さっき1つ考えてたけど。
「……ってもなぁ。神様でもなきゃ叶えられねーし」
「なぁに?」
(ま、いいか。行きずりの子どもだし。もう会うこともねーだろ)
「2年前に戻りたい、かな」
「なぁんだ。そんなこと?」
「ははっ。まぁな」
「いいよ、叶えてあげる!」
「よろしく頼むわ」
そっか、こういうごっこ遊びがしたかったのか。可愛い奴。
そう思って、ぽんと頭に手を乗せた。
「じゃあな。車に気をつけて帰れよ」
「お兄ちゃんもね!」
子どもは大きく手を振り、駄菓子を握りしめたまま笑顔で走り去って行く。
その瞬間、急激に意識が遠のく感じがして目の前がぐらりと揺らぎ……俺は地面に倒れた、気がした──。
「……れん、蓮! 起きて」
「ん……」
目を開けると、未来の顔がすぐ上にあった。
「おはよ。事務所行かなきゃ。早く起きて」
「いや、事務所はクビになったろ……」
身体を起こした場所は、見慣れた安アパートの布団の上。
「何言ってるの?」
きょとんとこちらを振り返った未来は、髪が肩につくくらい長い。
(あれ……?)
「クビとか不吉なこと言わないでよ。事務所は今日からでしょ。頑張ろうね。まずはマネージャーに名前覚えてもらわないと」
何言ってるの、はこっちのセリフだ。事務所は今日から?
(ええと、確か俺は事務所はクビになって、その後未来とヤッて、コンビニ行って、子どもに──)
『2年前に戻りたい、かな』
『いいよ、叶えてあげる!』
……え? まじで?
枕元にあったスマホで調べると、たしかに今日の日付は2年前の4月1日。
(あー……そういう夢ね。はい)
確かに、この日から事務所へ行ったし。
夢にしてはうちのアパート、やけにリアルに再現されてるけど。
未来が髪長かったのとか、久々に思い出したわ。
とりあえず夢ということで片付けて、俺は未来と一緒に事務所へ出発した。
「おはようございます!」
今日から入所の新人声優8人の声が、事務所の廊下できれいに揃う。その胸元には、揃いのでかいフルネームの名札が付けられていた。
目の前にいる女性マネージャーは、笑顔ひとつ見せずに俺たちを見回す。
「おはようございます。案内を担当する、マネージャーの須見です。みなさんは今日から出来れば毎日、名札を付けてここで立って、通りかかる事務所の関係者に挨拶をしてください。あなたたちの態度、声、見た目によっては、声を掛けてくれる方もいるでしょう。マネージャーや関係者の名前を覚え、自分の名前と顔を覚えてもらうこと。これがみなさんの最初の仕事です」
「はい!」
うちの事務所では『新人は事務所の廊下に立つ』という慣習が、設立当初より続けられている。
と、緊張感漂う廊下に、凛とした声が響いた。
「お疲れさま、新人くんたち」
「お疲れさまです!」
俺たちは、反射的に挨拶を返す。
ピンヒールにタイトスカート、肩までの黒髪をサラサラさせて登場したのは……
「マネージャーの都築です。よろしくね」
「都築先輩。今日は事務所にいらしたんですね」
「ええ。この後また現場行くんだけど、新人くんたちの顔だけひと目見てからにしようかなって」
その宣言通り、都築マネージャーは俺たちの顔をぐるりと見回した。
「ふぅん……」
鼻にかかったやたらセクシーなため息を漏らしながら、彼女は俺の方へ近付いてくる。
「君、名前は?」
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