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今更気付いた事実…
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恋人があんまりにも可愛くて、ほっといた時間がリアルに悔やまれ……俺はテーブルに身を乗り出してキスをした。
「……ゴメンな。今年あんま一緒にいらんなくて」
「いいよ」
「俺が良くない」
片手で頬に手を添え、更にキスを重ねる。未来の唇からは、イチゴとバニラの香りがした。
「ん……ふっ」
時々零れる息遣いだけが、狭い部屋を満たす。何度も何度もついばむように短く唇を触れ合わせていくと、未来がきゅっと俺のセーターの胸元を握った。苦しいのかと思って唇を少しだけ離すと、
「……今のキス、すごい好き」
艶っぽい声で、ぽつりと零れた言葉にドキッとする。
(そっか……)
俺は未来が好きなキスの仕方を知ってるし、エッチでどこがイイかも知りつくしてる。けど、俺が未来としてきた2年分の経験が、今の未来にはないんだ。
そのことに初めて気付いて、背中が少しだけ寒くなった。
俺は、あっち側の未来を『なかったこと』にしたんだ──。
でも、もうそれは選んでしまったことだ。今更怖くなったって、取り返しはつかない。
(せめて、今の未来を幸せにしたい)
俺たちは、一緒に通ってた養成所の卒業公演でメインキャストになって、お互いの家に行っては稽古をしていた。公演が終わって会えなくなるのが寂しくて、俺が一緒に住まないかと誘ってから付き合うようになったのだ。
つまり、今の未来にとってはまだ交際1年弱。
(不安にもなるわな……)
そんなタイミングで、放っておかれたら。
「ほんと、ごめん」
「どうして謝るの? 変だよ、今日の蓮」
「なんつーか、色々反省してるとこだからさ」
「反省より……もっとして欲しいな」
見つめてくる未来の瞳が、熱に潤んでいる。
「……おっけ」
お互いの唇の感触を味わうみたいに、ゆっくりとキスを交わす。それから、短い甘噛みを何度も繰り返した。じんわりと、未来の体温が伝わってくる。
胸元に添えられた小さな手を上から握ると、未来はもう片方の腕を俺の首に回した。
「……っん──」
零れる吐息に、快感の色が交じる。
俺がシャツの隙間から手を入れたとき、未来の身体が小さく震えた。安心させるように、背中の素肌を手のひらでなぞり、また短くキスをする。
「あのね、蓮。初めて……なんだよ」
「何が?」
少なくとも、この1年間何度も未来とエッチはしてるんだけど。
「クリスマスイブに、恋人とするの」
「バーカ。そんなん言われたら……燃えるだろ」
移動するのも面倒で、俺は食べかけのケーキをそっと端に寄せた机に、未来を押し倒した。
別に、クリスマスイブは恋人とエロいことをするためにあるわけじゃないなんて知ってます。でも、なんでかこの国ではそういう文化なんだよな。
年が明けて、約束していた勉強会に俺は無事未来と参加することが出来た。
事務フロアの下にある大会議室は、会議机が端に全部避けられて椅子だけが参加者の数だけ並んでいる。あとは、アフレコ用のモニターと、マイクが3本。
今日の講師は、『声優』って名前がまだ存在しなかった頃から声の仕事をしていたベテラン声優・和田ひろしだ。配られた教材は海外の児童文学を原案にした、古いアニメの1シーン。
「『僕は……家に帰りたい!』」
「『あなたの家は、ここだと言っているでしょう』」
「『違う! 僕の家は、あの山にある……ばあちゃんと住んでたあの家だけだ』」
「……一回止めようか」
俺の試演の最中、和田さんは不機嫌な声で言う。これは絶対怒られるフラグだ。
「なんでそんなカッコよくやるの? この男の子、別にイケメンじゃないでしょ」
「ああ、はい」
(って言われてもなぁ……)
放送された当初は女性声優が演ってた少年役で、中低音域の俺にやれって方が無理な話。
「最近の新人って、顔と声質だけで現場に乗り込んでくるから困るんだよな」
「おっしゃるとおりで……」
「交代。次」
返す言葉もなく、俺は自席に退く。
「はい」
未来が、俺の入っていたマイクの前にすっと出ていった。
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