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謝罪会見へ!
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(やり直す?)
頭の中に、一筋の光が射す。
あの子どもは、3回までなら叶えてあげるって言ってた。俺がやり直したのは、今までに2回。
(なら、ラストチャンスにかければいいか──)
面談室を出る頃には、それが一番の解決策に思えてきた。
「蓮……」
いくらか楽な気分になった俺に、未来の申し訳なさそうな声が掛かる。
「ん?」
「ごめんね、僕のせいで」
「なんで? お前のせいじゃねーだろ」
「だって……キスしてって言ったの僕だし」
「あのな、キスってのは1人じゃできないの。2人でするもんなの。だから俺も同罪」
「……そっか」
ちょっとだけ未来の口元がほころんで、俺の気持ちも軽くなる。
「大丈夫だよ。ちゃんと、俺がなんとかしてやるから」
今の未来は、いなくなっちゃうけど。でも今までの分も含めて、必ず未来を今と同じか、それ以上の売れっ子声優にする。それが俺に出来ること。
未来の夢を──叶えてやるんだ。
会見場は、都内ホテルの宴会場だった。
一応誠意を示すために、衣装は襟付きのシャツと黒のジャケットを事務所に指定された。これでどんな誠意が伝わるのか知らないけどね。
(上手くいったと思ってたのになぁ……)
心残りはそれだけだった。国民的アニメに2人で出て、上々の評価を得た。事務所の覚えも良くて、未来も楽しそうに仕事してて。これから、たくさんオファーも来ただろう。指名で仕事がもらえるなんてことも、あったかもしれない。
でも、やり直せばまたジュニアの無名新人だ。
(ま、今回も未来の可愛いとこたくさん見れたから、俺的には良しってことで)
自分の気持ちを励まそうと、無理やりそう思い込む。
何にしても、こんなスキャンダルを抱えたままやっていくのは未来が可哀想だし。やり直す。それが一番の方策だ。
「蓮、どうすればいい……?」
「未来は、黙って座ってればいいよ。全部俺が喋る。任せとけ」
会場手前の控え室で、俺は未来の頭にぽんと手を置いた。それから、2人のマネージャーの方を見る。
「鴻上マネージャーも都築マネージャーも、出てこなくていいっすよ。こんなことで世間に顔晒したくないでしょ」
「え、でもそれじゃ……」
「大丈夫っす。変にマネージャーに擁護されてるより、マスコミにフルボッコにされてるとこ見た方が、世間の同情も集まるだろうし」
「香月くんがそう言うなら、僕たちは出ないけど……何かあったらすぐ行くからね」
「よろしくお願いします」
俺は未来と一緒に、マスコミが待つ会場へと足を踏み入れた──。
入場と同時に、シャッターの音が無数に響く。会見台の上には、たくさんのマイク。
(うぉぉ、本物の記者会見場って感じ)
この時間軸がなくなることの分かっている俺は、気楽なものだった。
(どうせなら、めちゃくちゃやってやるか)
声優の謝罪会見なんて、そんなにマスコミが集まらないだろうとタカをくくっていたけど、出てみれば中規模の結婚式が出来そうな会場が満員になっている。
それだけ、俺と未来が有名になってたってことだろう。
深々と一礼して、席につく。
隣に座った未来は、困ったようにうつむいていた。
「大丈夫だって」
マイクに乗らないように、小声で未来にだけ聴こえるように言う。
「けど……」
「なんとかなるから」
「……うん」
小さく頷く未来。ごめんな、最後にこんな想いさせて。
俺は、申し訳なく思いながらすっと息を吸い──かりそめのショーを開始した。
「皆さま、本日は突然の呼び出しにも関わらず、こんなにたくさん集まって頂いてありがとうございます」
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