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「いらっ、しゃい、え、あっ」
「ちょっとー。挨拶も出来ないんすかぁー。ここのスタッフは」
例のコンビニに行ったら、店内をモップがけしていた木山に出会った。というか、いるかなと思って一か八かで来てみた。
やめてくださいよ、と木山は慌てて、レジのおっさんに知り合いなんですと申告する。おっさんはにこにこ笑って俺にも手を振ってくれた。店長じゃなくてよかった。あと暇な時間帯でよかった。
「何してんすか、先輩」
「買いもん。他に何があんだよ」
「いや、別に。どうぞ」
一番奥の、弁当やら冷蔵もんやらが陳列している棚を眺める。うーん。どうしようかな。なんかあんま食いたいもん、ない。お米と温かいもん。そのくらいしか要望はなくて、肉選んだらまた元春になんか言われるんだろうし。そもそもコンビニでの飯に、文句言われっけど。あー、なんか、やだな。いつの間にこんなに思考まで支配されてんだ。
夜のだらだらした時間。店内を流れてる音楽がわりと好みで、そっちに耳を済ませた。かったるいリズム。呟くような男の歌声。深呼吸の間隔で盛り上がるゆっくりとしたメロディ。
「先輩」
「うるっせえ、なんだよ」
いつの間に後ろにいた木山が、何悩んでるんですか、と俺の肩に顎をおいた。犬かよ。
「あ、おすすめこれっすよ。新商品」
「えー……………いい。つか働けよ」
「暇なんすよ。あと、もうあがるし。あ、つか、飯っすか。いつも買ってるんですか?」
「…………たまに」
恋人さんは? とか、聞かれて、軽く腹をなぐる。うるせえ。
「一緒にご飯食べたりしないんですか」
「知らねえ」
「えー。なんすかー。それー。あ、喧嘩したとか?」
「しねーよ。馬鹿じゃねーの」
「えっ、喧嘩しないんですか。なにそれ。仲良し」
しつこい。なんか勝手にまたはしゃいでるガキを、俺は生ぬるい視線で眺める。こいつの中身、女子高生じゃねーの。
「……飲みで今日いねーんだよ」
言っててさびしい自分が嫌になる。
「え、じゃあ一緒に飯食いましょうよ」
「やだ」
「なんで?!」
酷いと喚く後輩に笑う。
「おれと飯食うのが嫌ってことですか」
「めんどくせーな、おまえ。飯ぐらい一人で食えよ」
「別に食えますけどお。…………違うじゃんすか。なんか大学でみんなと一緒だったり、バイトしたあとに、急に家で一人で飯食うの、さびしくないっすか?」
わかる!
わかりみが強くて俺は笑う。俺も一人暮らしのはずなんだけどな。誰かとご飯を食べるのが当たり前になってる空間で、一人はしんどい。
俺の爆笑を誤解して、またバカにしたでしょ、と木山は拗ねた。
「えー、いいじゃんすか。おれもうほんと、すぐあがりなんで」
壁にかかってる時計を木山は指差す。あと一、二分で、てっぺんを指す分針。
「うち来ます? あ、てか先輩の家行きたいっす」
「やだ」
「えー。部屋どんなっすか。インテリアとかおれ今色々探しててぇ」
「女呼ぶのに?」
「勿論」
「…………じゃあお前の部屋行ったほうがいいじゃん」
「あ、なる。アドバイスおねしゃす」
「…………クソみてぇなヤリ部屋だったら帰る」
今度は軽く蹴りをいれて、俺は雑誌のほうへ移動した。いちゃついてるカップルが入店してくる。あのラブホ行くのかな。どうでもいいけど。
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